Schwaezen Kamel 黒駱駝亭、再び@WIEN

先週の曇天が嘘のような快晴のウイーン滞在11日目。通算20食目のオーストリア料理は黒駱駝亭のメインダイニング。創業1618年、あとわずかで400周年を迎えるという超老舗の敷居は決して低くない。壁際のボックス席は常連、紳士淑女専用。本物のアールデコの空間を仕切るメートル・ドテルはカイゼルひげで給仕長というより執事頭という肩書きが似合う哲学者風。名店の条件がいくつかあるとするならば、給仕たちの熟練度ときびきびした動きは必須であるが、この店の給仕たちの働きぶりは芸術品である。小さな厨房から次々に運ばれてくる料理を無言でてきぱきとさばく若い給仕と女給、給仕頭やソムリエ頭が醸し出す老舗の空気感。

アミューズはクラシックな自家製スモークサーモンとサーモンムース。前菜、Handgeschnittener beinschinken mit Kren und Hausbrot、すなわち「手作り腿ハムにクレンと自家製パンを添へて」。かつてトリエステの名店スーバンで手作りプロシュートアロストにクレンを添えて食べさせてもらった際、そのみずみずしさに思わずフォークを落としそうになったことがあったが、黒駱駝亭のシンケンもまた素晴らしい。次いでメインは子牛のリブロース・エストラゴン風味、アミガサダケをおともに」。柔らかい子牛肉を白ワイン、バター、エシャロットなどなどで作ったソースで食べる。軽く火を通した旬のアミガサダケ、セップダケにはポルトかマディラを煮詰めたソース。さらにエストラゴンとバターのソースと3種のソースを使った超絶技巧に溜息、また溜息。クラシックだが古くさくなく、盛りつけはしっかりと現代的。おそらくは黒駱駝的永世定番の料理を20年、30年単位のスケールで考え、作り続けている老舗の余裕と底力。かつてイタリアの老舗料理店を集中的に回ったことが何度かあったが、この黒駱駝亭はそうした名店の数々を凌駕する圧倒的な歴史と存在感。ウイーンは奥が深い・・・。MASA