イタリアワインを100倍売る法

日本におけるワイン消費の形態と傾向は、ヨーロッパのワイン産地にとっては”非ワイン文化圏”におけるマーケティング戦略に興味深いヒントを与えるようだ。まず、”非ワイン文化”国ニッポンでの一人当たりの平均年間ワイン消費量は2.2リットル、ところが首都圏でのそれは5リットルを超え、全国の年間消費総量のおよそ半分を占めている。(テアトロ・ナトゥラーレより)

輸入総量としては世界で12位だが、輸入総額としては世界4位。つまり、高級ワインの輸入比率が非常に高い。それは日本人にとってワインは”ハレ”の飲み物であり、日本人が抱くワインへの特別な関心を示している。でも、それは1人の人の中に同居する傾向ではなく、二つのワイン嗜好が存在することをも示している。

「今日はいいことがあったからワインでも飲むか」的人々には「その名前、聞いたことある」あるいは「前に飲んで美味しかったかも」という記憶から、キャンティやソアヴェ、最近では軽くて飲みやすいプロセッコ、なんだか素敵な響きのあるシャンパーニュが好まれる。端的な例がボジョレ・ヌーヴォで、2006年には1100万本が輸入された。輸入総量で第二位のドイツ(320万本)を遥かに上回ることからも”ハレ”の飲み物としてのワインの立場はゆるぎない。

そして、「ワインは飲みたいけれどそんなにたくさんは飲めない」人々のために200ml, 250ml, 350mlといった従来のハーフボトルよりも少量のタイプや250ml缶などカジュアルでライトなスタイルを強調したものが結構出回っている。スクリューキャップも手軽さを好む人々に受けがいい。でも、こうした少量&お手軽ワインはワイン・ビギナーだけでなく、ワイン・ラヴァーにも好評だというから、ワイン生産者は気を抜けない。

さらに、もう一つのワイン嗜好者、プレミアム・ワインやカルト・ワインを日常的にたしなむ人々及びその予備軍(いつかはあれを飲んでみたいと切望する日々を送る愛すべき人々)にとって、ワインについて知ることは無上の喜びである。どこのどんな生産者がどのようにしてそのワインを造り、そのワインはどのような歴史的背景を持つのか、一本のワインの中に秘められた物語を知りたいという思いは、”ワイン文化圏”の人々よりも遥かに強い。

だから、ワインに関する書籍、ワイン専門誌が数多く存在し、ソムリエたちの飲み比べレポートは盛況で、ワイン・アドヴォケイドの評価点数が市場を左右する。自分の舌で評価する自信がないからだろうという向きもあろうが、これほどだくさんのワインが世の中に氾濫しているのだから、目印や指標は当然必要である。なんといっても一生に飲めるワインの量は限られているわけだし。

でも、流されやすいというか、ノリやすいというか、イベントや話題があればそのワイン消費が跳ね上がるのも事実。2001年の日本におけるイタリア年ではイタリアワインの消費量は前年比16%上昇、2006年のトリノ冬季五輪ではピモンテワインの売れ行きが飛躍的に伸びたという。

そこで、日本でイタリアワインを売るには、「微細に渡って日本人の性向を分析し、個々のワインについての説明も大切だけれどDOCの知名度を広く深く浸透させ、さらに生産者同士が一丸となってセミナーやイベントを開催すべきだ」という。思えばフランスはそのあたりを実にうまくやっている。イタリアはトップのイタリア●易振興会が今ひとつ機能していないのと、生き馬の目を抜く生来の敵愾心が邪魔をしているように思う。それよりもなによりも、見本市でよく見かける身内同士でおしゃべりに夢中、なんていうのをまずなくすことから始めないとね。mnm