星めぐりVilla Crespi & Piazza Duomo

某日、Orta San Giulioの二つ星Villa Crespiで取材昼食。メートル・ドテルのPaolo君に当初「7皿をご用意しています」と言われ、日本人の胃袋は小さいし、その後も仕事があるからと「4皿で」とお願いするも「じゃ、5皿で」と押され気味。と思ったら、結局6皿が出された。イタリア人得意の寄り切り技。

でも、身長190cmのシェフAntonino氏の体格からはちょっと想像できないほど軽く繊細な料理の数々に、一同「食べた後ももたれなかった」と少なからず驚嘆。ヤギの乳を飲ませた鶏の卵の黄身ソースで生のgambero rossoを食べさせる前菜は、濃厚で余韻が強いながらも全体の調和がとれているせいか心地よい食後感で、ひよこ豆大の小さなニョッケッティに添えられた昆布は色気のなさを補ってあまりある旨味にニッポン人のDNAがくすぐられる。Paolo君おすすめのセコンド、皮をぱりっと焼き上げたブリの頃となるとはさすがにちょっと満腹気味だったけれど、天上の美味が大げさなら、peccati di golaを犯してでも食べるべき一皿。dolceは時節柄、桃のバリエーション。これまた軽快な仕上がりに「お後がよろしいようで」と思ったら、カフェとともに登場したパスティッチーニの、シェフのオリジンを主張するナポリ銘菓アラゴスタに撃沈。美味しいのはわかるんだけど、このタイミングでリコッタクリームは絶対に無理だってば。

某日、Albaの一つ星Piazza Duomoで取材昼食。ワイナリーCeretto社がグアルティエロ・マルケージ一派のEnrico Crippaと出会ったことから誕生したというAlbaの街中では初めてのコンテンポラリー料理店。お噂はかねがね、ということで実は密かに今回一番楽しみにしていた訪問。ニッポン人ならではの約束の時間ぴったりに二階のレストランフロアに上がっていったら、上がり口にEnrico君が仁王立ち。さすがマルケジーノ、D’OのDavideもそうだけど、イタリア人らしからぬきっちり感満載。あいや〜面倒かもと思いつつも話しているうちに、撮影料理の内容に話題が移ると「アトデカンガエマス」と日本語が。「アリガトゴザイマス」程度のボキャブラリーにとどまらない日本語力は、3年間の大阪神戸体験の賜物。なんだよー、先に言ってよ〜。

撮影後の試食、Enrico君は「色々出してみんなで分ける?」と日本人の習性をさすがよくご存知で、しかも、前菜とプリモの二皿でOKという我々には願ったり叶ったりの展開。7人に4種類くらいが供されたので、全員が少しずつ全種類を味わうことができた。普段だったら一皿抱え込みしたいけれど、状況が状況だけにこのシステムはありがたい。で、肝心の料理は言うまでもなく美味しい。どこか日本の味がしのばせてあるような気がして、下手すると「余計な事せんでも」と思われる危険をあえて犯して、しかし自分の世界を確立することに成功している。もっとじっくり味わうために必ずや戻ってこようと固く心に誓った。

翻ってミラノの某日、夜。取材チームはさらにふくれあがり、総勢10人で二つ星Carlo Craccoへ。親分が「金に糸目はつけないよ」とこのご時世にありえないような号令を発したがためにじゃぁ、とその晩の21時30分を予約。しかし、この仕事、時間通りにいかないのが当たり前、「遅れます」の電話を2度入れて(ニッポン人の律儀っぷりをアピール)22時15分に到着。2005年以来三年ぶりの訪問はしかし幻滅のひとことに終わってしまった。

もちろん、遅れてきた団体を受け入れてくれたことには深く感謝するけれど、サービスが雑、料理の仕上がりも雑、さらに客層が(自分たちのことは神棚に上げて)驚くほどに落ちているのに愕然。夜なのに、Tシャツでオッケーかよ!なテーブルが半分くらい。ほぼ満席なのはよろしいけれど、そんなお客が増えてるのはいかがなものか。カジュアルな客層ゆえ、話し声も高いし、その客に対抗して(?)カメリエーレも声がでかい。極めつけは、夜更けの厨房から何度も歓声が聞こえてきた事。そりゃ、我々は最後の客だったから仕方ないことかもしれないけれど、お誕生パーティは少なくとも最後の客が帰ってからにしてもらいたいかも。

雑な上に相変わらず味は濃くて、トリノ在住の友人ジャーナリストが「彼は本当に料理が好きなのか?」と疑問を呈したことが鮮やかに思い出された。昔、ピエモンテのLe Clivieはほんとうに美味しかったのになぁ...。mnm