ほんもののラグー

時効、すなわち、発行日まで語るわけにいかない(場合によっては発行後も語れない)物事があります。今回は、ラグー・アッラ・ボロニエーゼ、すなわち、ミートソースであります。

本日ディストリビュートされた住友しんきんVISA系「はれ予報」で紹介されているエミリア地方の食は、パルマのプロシュート、パルミジャーノ・レッジャーノ、モデナのバルサミコなど、今更申すまでもないイタリアを代表する食材がその核をなしています。そのあたりについては、本誌をなんとかして入手してご参照くださいませ。

もちろん、ラグーについてもかなりの紙幅を割いてアプローチしていますが、ここでは私が、へぇぇなるほど、と思った手順を。

その1。材料の割合。肉1に対し、香味野菜(odori)は0.5、うち、たまねぎは半量、残りの半量をセロリ、ニンジンで。ラード(strutto)は肉と野菜の全量に対し、0.5割。

その2。ラードを弱火で溶かして透明な油状態になったところへ、みじん切り香味野菜を加える。野菜はsoffriggereではなく、stufareで、不要な水分を飛ばして旨味を確保する。つまり、色付けるのではなく、あくまでも透明感を維持。

その3。肉は牛の首から肩にかけての、筋肉ではないけれど、よく動かす部位を使用。つまり、繊維に富み、多くの血液が通っている部位。よくわからなければ、馴染みの肉屋さんに「4時間の煮込みに耐え、かつ味わい深い部位を」と注文する。

その4。上記肉をなるべくふんわり挽いてもらって、充分に水分を飛ばした香味野菜に投入し、表面を焼き付けるのではなく、さっと焙って表面に膜を張り、うまみを閉じ込める気持ちで鍋中を返し続ける。

その5。赤ワイン(飲み残しとか、料理用とかではない、飲んでそこそこ美味しい甘みと酸味のバランスのほどよいもの)をコップでざっくり1杯から2杯加えてアルコールがほぼ飛んだところで、分量調整。

その6。つまり、たっぷりの量で作っているので、多すぎる分をガラス瓶に移し、蓋をし、鍋に張った沸騰湯につけて25分、真空密閉を施す。粗熱がとれたら冷蔵保存。冷凍は風味を損なうので不可。この取り分け分は、以下の行程を経て再生させます。

その7。鍋に残した、つまり、そのままフィニッシュへ向かう分に、トマトのパッサート(つぶして裏ごして塩で調味、ガラス瓶に入れ、蓋をし、鍋に張った沸騰湯で真空密閉したもの)を加えて、必要に応じて水を加えながら、トータルで4時間ほど煮込んで、ラグー完成。

正しいラグー・アッラ・ボロニエーゼは、タリアテッレにたっぷり和えたのち、皿に盛り、食べ、食べ終わった皿に”余分な脂分が一切残っていない”状態となるそうです。ちょっとでも脂たまりが見られるものは、失敗だと見なされます。

実際、あれほどのラードと肉を使っていながら、食べた後の皿はきれいさっぱりでした。ラグー=ヘビーのイメージは間違ったものなのです。でも、意識して野菜を摂取しなければ平均的な日本人の体が変調を来すことは、エミリアの料理の唯一最大の欠点であることに異論はありません。

注※その2のみじん切り野菜。昔は木のまな板でみじん切りしていたので、余分な水分というものはまな板が吸っていたけれど、昨今の樹脂まな板ではそれが叶わないため、加熱して飛ばすほかないのです。mnm