「シチリア島の夕べの祈り」と卵の話

「シチリア島の夕べの祈り」というのはヴェルディの歌劇にもありますが、日本でいえば鎌倉時代の1282年のパレルモで、当時支配者だったフランスの横暴に対してシチリア人が一斉蜂起した事件であります。暴動が起きたのが復活祭の翌日の夕方。暴動が始まった時、ちょうど晩禱を告げる鐘が鳴ったことからこの事件は「シチリアの晩禱」とか「シチリア島の夕べの祈り」I Vespri Sicilianiと呼ばれるようになりました。ヴェルディのオペラも最後は晩禱の鐘が鳴り、暴動が始まるシーンで終わってます。で、復活祭とは移動祝祭日なのでこの事件が起きた1282年の復活祭翌日は3月30日でしたが、2010年でいえば復活祭翌日とは4月5日、つまり昨日ですな。

復活祭といえば再生のシンボル、卵がよく使われていまして、定番は卵形をしたチョコレートUovo di Pasquaとか、シチリアなど南イタリアではゆで卵を殻ごとパン生地に包んで焼いた様々なパスクア・パン、Pane Pasqualeがあります。フィレンツェのワインバー、というのは今のいい方でして昔風にいうならVinaio、ではつまみの定番はゆで卵でした。毎朝ゆで卵を6個お食べになるという板東英二さんじゃありませんが、今でもワインのつまみはゆで卵、と頑なまでに伝統を守る老荘フィオレンティーノもまだ結構いて、そんな人たちのためにカウンターにはいつもゆで卵を用意しているのだ、とはVinainoの店主Fulvioの言。Casa del Vinoしかり、Vinainoしかり。そういえばヴェネツィアのバーカロでも誰が食べるのか、結構ゆで卵が置かれてるのを見かけます。

先日訪れたSantagostino23のメニューには復活祭を意識してか、老荘フィオレンティーノのためなのか、前菜に「ゆで卵×2」(!!!!)というすごいメニューがありました。確か4ユーロ。あまりにシブ過ぎて誰も食指が動きませんでした。

ゆで卵で思い出すのがシチリアはBagheriaの老舗Don Ciccio。「シチリア美食の王国へ」をお持ちの方ならその名を聞いてぴんとくるやもしれませぬが、この店では席に着くや否や出て来るのが殻つきゆで卵とズィビッボの前菜、というか突き出し。オールドファンにはゆで卵の殻をむきむき甘口ワインをすするのがたまらない方も多いらしく、この突き出しを食べ終えた、さてパスタは何にしよう、そうだ!!イワシのブカティーニでも喰うかな、と正気に戻る輩も多いとか。この店を初めて訪れたのは今は昔の1995年。当時シチリアで修業中だった現アル・チェッポ@白金のシェフ、今井雅博大兄に連れていっていただき、食べたのがこのゆで卵とイワシのブカティーニ。フィノッキオ・セルヴァティコの効いたそのパスタには延髄を蹴られたような衝撃を受けました。私の中のシチリア原体験のひとつです。

前置きが長くなりました。過日シチリアを訪れたときの動画がようやく整理できたのでダイジェスト版5分弱にまとめてみました。BGMはその「シチリア島の夕べの祈り」から「Mercè, dilette amiche」です。例によって音が出ますので音を聞かれたくない方はボリュームを下げるかお人払いを。動画中に登場するレストランは豚の王様ことMajore@Chiaramonte Gulfi、ホテルはSan Domenico Palace@Taorminaです。MASA