アグリトゥリズモ・サッセッタ

ほぼ10年ぶりに訪れた、アグリトゥリズモLa Cerreta。当時から農業とはなんぞやと自問自答するダイハードなアグリだったのが、10年のうちにそのフィロソフィはビオディナミへと昇華し、一方でしつらいやサービスにはそれなりに洗練の匂いが加味されて、華美ではないけれど、こなれた感じに変化していました。

敷地にはマレンマ牛、馬、チンタセネーゼが飼われ、朝は鶏が鳴き叫び、新しいお客がくれば飛びかからん勢いで吠え立てる小型犬が5匹、体はやせやせ顔は巨大なネコが夕食のテーブルにつくお客に挨拶して回る...テーブルは相席が基本。カップルだとか家族だとか、そういう枠を越えて皆同席同食するのが、アグリの原則の一つです。

ここの目玉のひとつは料理。今は失われつつあるリヴォルノ県マレンマ地方の料理は、ここの奥さん、ヴィルマのおばあちゃんから伝えられたもの。厨房ではそのヴィルマが全権委任して15年目というリータが腕を振るいます。今夜のメニューは、パンツァネッラ、ネピテッラ風味トマトソースの手打ちパスタ、牛肉入りペペロナータ、桃のセミフレッド。ワインは軽く冷やしてあります。SO2無添加ゆえ、この暑さでは低温保存しなければ変質してしまうのです。

ペペロナータのピーマンは、大きいものをざっくり縦4等分、牛肉は自前のマレンマ牛、その一切れが掌大。豪快です。パスタは小麦粉と水だけのシンプルな生地をランダムに切り分けたストラシカーティ、トマトは湯むきして、にんにくとネピテッラと唐辛子でアラビアータ風ソースに。桃のセミフレッドは、桃のゼリーに桃のごく小さな角切りを加えて冷やしたもの。食感はババロアに近いしっかりとしたテクスチャーです。しかし、一番なるほどと膝を打ったのは、パンツァネッラ。自家製のトスカーナパンを使うというのは、ハードルが高いので無視するとしても、ごくごく薄切りにして乾かし、そこに完熟トマトを指で崩しながらいきなり加えるのです。普通、パンツァネッラは固くなったパンを水でふやかしてから他の材料を合わせるのですが、それでは味が水っぽくなるので、最初からトマトの水分を利用するわけです。

ここは今、テルメを建設中。掘ってみたら温泉が出たというのだが、その施設、思ったよりも巨大。設計は誰に頼んだのかと聞いたら、ヴィルマが考えたのだとか。サリーナのシニュムもそうですが、障害をものともしない肝っ玉母さんのパワーは、その宿の無敵のエンジンです。mnm