Boulangerie Rifrullo@Firenze

Pane e Vino、という言葉があるくらいパンとワインというのはイタリアでの食生活の基本であり、日々の食卓においては宗教的な意味合いも持つ重要なファクターである。なにはなくともまずパーネ、というイタリア人は多くさすがにパスタとパン、という粉×粉という組み合わせこそしないものの、例え食べ切れなくて固くなろうとも食卓にはとにかくパン、という頑なまでな嗜好が確かに存在するのである。しかしフランスや、人によってはドイツ、オーストリアなどのヨーロッパ諸国に比べてイタリアのパンが美味しくないというのは、イタリアにはパスタがあったからだ、というある種逆説的な解釈もあるが、国家として誕生してからわずか150年にしかならないイタリアを「イタリアでは」というひとことでまとめるのはあまり意味がないことである。ジャンフランコ・ヴィッサーニはつねにいう。「真の意味でのクチーナ・レジョナーレとは存在しない。なぜならイタリアという国家も、州(=レジョーネ)という概念も誕生してからわずか150年であり、地域の料理はそれ以前から存在している。それはいわばクチーナ・テリトリアーレ(=地域の料理)というべきであろう」と。

イタリアにおいてもプーリア、シチリア、リグーリアとパンの美味しい土地はいくつもあるがそういう土地には硬質小麦やオリーブオイル、あるいは水といった上質なパンが生まれるべき重要な要素が必ずあるが、果たしてフィレンツェ、つまりトスカーナはどうか?イタリア全土のDOPを見渡しても指折り数えれば恐らく5本の中には必ず入る上質なオイルはある。小麦も硬質ではなくともある。水が美味しいのはアクア・パンナがあることを見れば一目瞭然。ではなぜトスカーナ・パンは美味しくない、つまりパーネ・ショッコといわれるのか?それは塩を入れないからである。

その理由にはいくつかあり、いわく、ピサとの戦争時に港をおさえられていたので塩が入らなかったから。いわく、伝統的にフィレンツェ人は商人なのでケチ、高価な塩を使うのを禁じたから。いわく、トスカーナ産の生ハムやサラミなどは塩をきつめにしてあるため、塩無しパンがちょうどあうから。いずれも納得がいく理由であるが、いずれにしてもパーネ・トスカーナの食べ方としてはあぶってオイルと塩をして食べるか、濃いめの味付けのスーゴをぬぐうか、パニーノにするか。つまり主役ではなくあくまで主菜たる肉料理に対する従的な存在である。

前振りが長くなりました。というわけで名前を見れば分かりますがそんなフィレンツェにフランス風バゲットを売りにするブーランジェリー&カフェが誕生しました。本店はサン・ニッコロ地区にあるカフェ・リフルッロ。フランス並み、とまではいかないまでもこうしたスタイルの店がこと食に関しては頑固なフィレンツェにぽつぽつとはいえ誕生するのは嬉しいことであります。バゲット2種類、ひとつはラルド・ディ・コロンナータ、ブリー、サルサ・タルトゥファータつまりトリュフ・ソース。もうひとつはグリルチキンとトマト。口にしてみればパンはフランス志向なのでしょうが味はあくまでもイタリア的。ラルド、ブリー、そしてトリュフソースの組み合わせはINOもびっくり、はたと膝を打つ美味しさで、ローコストの食ばかりがもとめられる現代、主役たるパニーノ、パニーノ・ダウトーレは今のイタリアを理解する重要なキーワードであります。価格設定は少々高めなもののトルナブォーニ界隈でライトランチ、でもプロカッチじゃものたりないという時にはよさそうな感じ。MASA