Agriturismo Testone@Sardegna

「フィリンデウ」というパスタはサルデーニャ島の奥の奥、 ディープな島サルデーニャの中でも最もディープな内陸部バルバージア地方で作られる手打ちパスタだ。手延べそうめんよりさらに細い極細麺をシートにしたようなフィリンデウは、カリアリあたりならば食料品店で売っているのも時折見かけるけれどサルデーニャ外で見ることはまずない、レア・パスタである。

この珍品フィリンデウに出会ったのはアグリツリズモ・テストーネだったが、ここへ辿り着くのがまた容易ではない。場所はというとヌオロから13kmの山奥にあるのだが、これまたいけどもいけども看板など皆無。携帯の電波も届かないような場所だから頼りのGPSも、電話しようにもどうにもならない状態。それでも勘を頼りにここぞとにらんだ裏門を押し開け、羊の群れを避けながらようやく辿り着くことができたのだ。

アグリツリズモ・テストーネの主セバスティアーノは顔一面濃いひげに覆われた、農夫というよりは学校の先生のようなインテリタイプ。この日セバスティアーノは近所のフィリンデウ名人を連れて我々の到着を待っていてくれたのである。「神の糸」という意味を持つフィリンデウは、パスタ生地に塩水をさっと加えることで実に細く延ばすことができる。そのさまはまさに手延べそうめんで、何度も何度も伸ばすことでパスタは糸上にまで細くなり、これを丸い板にはりつけて編み物状にしてゆく。これを三回繰り返したらあとは天日でしばし干す、するとフィリンデウが縮んで割れ、まさに布のような断片となる。

「夜はフィリンデウを食べよう」とセバスティアーノがいうので楽しみにして食堂に行くと、まずたっぷりの羊のブロードが用意されていた。これにフィリンデウをバリバリと割って入れ、さらにすりおろしたペコリーノを加える。するとブロードはフィリンデウとペコリーノがどろどろの渾然一体となった世にも不思議な形状の食べ物となるのだった。さあさ、おかわりはたくさんあるからどんどん食べろ、とセバスティアーノにいわれるままフィリンデウを口に運ぶ。食べても食べても減らないし、味はといえばほぼ塩味のみのシンプルなスープパスタだった。美味しいか美味しくないかと問われれば、おそらくはもっと美味しい食べ方もありそうな気もするが、ディープ・サルデーニャのど真ん中、100%羊文化のバルバージアではこのようにして食べるのが正しいのだ。

http://www.agriturismotestone.com