ポルケッタ・ディ・アリッチャの謎

ポルケッタ、とは主に中部イタリアを中心に食べられている豚の丸焼き、というか丸ローストのこと。 市場、屋台、ガストロノミア、スーパーマーケットなどで その巨大な肢体が横たわる様子を良く見かけるがポルケッタと聞いただけでいてもたってもいられなくなる。皮はパリパリ、時に固くて食べられないこともあるがそれは個体差。内部にはローズマリーなどのハーブが詰まっていて塩味のきいた豚肉はそのまま食べたり、パニーノにして食べる。特にローマはロゼッタ+ポルケッタでパニーノ、というのが定番中の定番でもある。

サルデーニャでは子豚の丸焼き、あるいは半身のロースト「ポルチェッドゥ」が名物で、レストランはもちろんのこと家庭でもピッツァ窯がある家や、あるいはオーブンでも作ることが出来る比較的ポピュラーな肉料理である。本来は羊飼いが野営した際に穴を堀り、焚き火が熾き火になったらミルトの枝、豚、再びミルトの枝、土という順番にかぶせて蒸し焼きにし、食べた後は骨を再び穴に埋めて野営の痕跡も残さずに立ち去るのがサルデーニャの羊飼いの伝統、という説もあるワイルドな料理であった。

しかし、屋台などで見かけるこのポルケッタは生前の推定体重100kg超。さらに骨を抜いてハーブを詰め、再び成形しておそらくは24時間以上じっくりと巨大なオーブンでローストする、というのは当然だが屋台はもちろんのこと家庭でもレストランでも無理だろう。つまりどこかにフォルニトーレ=卸し、が存在するはずとつねづね思っていて、最近はポルケッタを見かけるたびに耳につけられたメーカーのタグを読み取ることを試みていた。そんな中、今回取材したチブスにはポルケッタ専門メーカーが2社出展していたが、まずこちらはローマのItalporchettaのポルケッタ。

 

資料によればイタルポルケッタはローマ近郊フラスカティの隣にある小村アリッチャAricciaのメーカーで創業1947年。アリッチャでは1950年以来2年おきに「ビエンナーレ・ディ・ポルケッタBiennale di Porchetta」が行われているそうだ。ということは偶数年の今年はビエンナーレ開催の年ではないか。ちなみにこのPorchetta di Aricciaは2011年にEUのIGP食品に指定されており、決してまだ全国区ではないがローマあたりではアリッチャ=ポルケッタの聖地、という図式が成り立っている。もう一社は家内制手工業的ポルケッタ生産者であるマルコ・アルジェンターティMarco Argentati。こちらはいかにも手作り感満載で、母上が手切りにしたポルケッタを味見させてくれるというなんともほのぼのと心が温かくなるサービスでもてなしてくれた。

 

 

アリッチャにはマエストロ・ポルケッタイMaestro Porchettaiなる職業があり、マエストロのみが完璧な骨抜きと成形、火入れをこなせるとのこと。イタルポルケッタもマルコ・アルジェンターティも詳しい製法を明らかにしていないが、マエストロ・ポルケッタイの間では一子相伝の口承伝達によってその秘伝の製法が伝えられてきたとされている。いいポルケッタとはまず巨大な豚を骨抜きし、成形。全身可食部と化した豚は文字通り頭の先から尻尾まですきまなくコンパクトに肉が詰まった状態で、しっとりコンパクトな肉質、適度な脂、カリカリの皮、という3つの重要ポイントをハイレベルでクリアしたものに限られるという。半身のPorchetta Mezzana、頭を落とした35〜45kgのIGPポルケッタPorchetta di Ariccia IGP senza testa da 35 a 45kgなどアリッチャのポルケッタにはいくつか種類があるが、やはりそのフラグシップは有頭ポルケッタPorchetta di Ariccia IGP con testaであろう。 肉好き、豚好き、ポルケッタ好き、を自認する29マニアならば一度ポルケッタの聖地アリッチャを旅し、片っ端から試食してみることをおすすめする。