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ヴェネトの春は「バッサーノ産白アスパラD.O.P.」

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長さ18-22cm、直径11㎜以上。完璧な白色を持ち真直、そしてキュッと閉じた穂先。春の味覚の王様ともいえるD.O.P認定のバッサーノ産白アスパラの基本的な条件。

春を告げる産物であるアスパラは、ヴェネト州内いくつかに産地が点在するが、「バッサーノ産白アスパラD.O.P.(アスパーラゴ・ビアンコ・ディ・バッサーノD.O.P./Asparago Bianco di Bassano D.O.P.)」は他地に群を抜く品格がある。白アスパラの産地でも同時に緑も生産している場所が多い中、バッサーノだけは、あくまでも「白アスパラ」のみを生産し続ける。

バッサーノ・デル・グラッパは、ヴェネト州ヴィツェンツァ県北東部に位置する。同地を中心とした地域は、アルト・アディジェより流れ込む清流、水流豊富なブレンタ川の恵みを受けた土地。ミネラル分を多く含むアスパラ栽培に最適な、しかも適度に水はけのよい砂利地、風通しよく湿度を溜め込まない気候という土地特有の優位性を背景に、古くより白アスパラの最適産地として存在する。

アスパラ自体の起源に遡れば、また、イタリアのアスパラ栽培の歴史を遡るとローマ時代にまで行き着くが、バッサーノでの白アスパラの記述は1200年代頃からとされる。パドヴァの守護聖人である聖アントニオが、当時、暴君として知られていたパドヴァの領主エッツィアーノ・ダ・ロマーノ3世との謁見に伴い、平和的・友好的話し合いを求め、武器を持たずにバッサーノの白アスパラを手土産にした、という記録も残されている。その結果は残念ながら平和的には集結はしなかったものの、その後、白アスパラはそれをきっかけに、後のパドヴァ領主カッラレージ、ヴェローナ領主スカーラなどによりそれぞれの土地に運ばれ、栽培の区域が広がった。現在でも、パドヴァ県内、ヴェローナ県内はアスパラの有名産地がいくつもある。

現在、D.O.P.に認定されるバッサーノ産白アスパラの生産区域はヴィツェンツァ県内10コムーネ(自治体)に指定されている。それらは、バッサーノ・デル・グラッパ(Bassano del Grappa)、カルティリアーノ(Cartigliano)、テッツェ・スル・ブレンタ(Tezze sul Brenta)、マロスティカ(Marostica)、カッソーラ(Cassola)、ムッソレンテ(Mussolente)、ポーヴェ・デル・グラッパ(Pove del Grappa)、ロマーノ・デェッツェリーノ(Romano d’Ezzelino)、ロザ(Rosà)、ロッサーノ・ヴェネト(Rossano Veneto)があたる。季節ともなると上記の各地区にて、品評会を含むサグラ(収穫祭)が順を追って開催され、同地域全体が活気づくものだ。

D.O.P.を具えるには、指定区域内での苗植え、収穫、そして出荷作業が行わなければならないのは言うまでもない。さらには生産組合にて規定されている肥料や作業時期及び出荷時期等の厳しい基準に従い、内容を申告、そしてそれらをクリアする義務が課せられている。それらに準じるのはそう容易なことではないことから、区域内で白アスパラを生産しても、D.O.P.の認定マークをつけずに販売する農家も少なくはない。実際には、アスパラ農家は概して小規模農家が多く、主職業を引退した人たちが白アスパラ栽培を専業するという例も稀ではない、というのも現状だが、生産地呼称であるD.O.P.という、いわゆるブランドを冠する生産に至っては、良質生産に照準を定めた尽力がなされている。

さて、実際の白アスパラ農家の収穫の様子を。ここはカッソーラ地区とロザ地区の境界に位置するアスパラ農家、ジュセッペさん宅。彼は、御祖父、さらにその前代以前からも続く、代々の白アスパラ農家であり、集積所となる組合(コペラティーヴァ)の担当者も、クオリティの高さと安定感にお墨付きをつける生産者のうちの一人だ。

畑はこの時期、日よけ用の黒いビニールシートがかぶせてある。アスパラの収穫の始まる1カ月ほど前に苗と畝を整え、これから次々と地中から顔を出してくるアスパラに、日があたって紫色に色がつくのを防ぐために畝全体を覆う。そして、その両端は、風で飛ばないよう、定間隔に重しが置かれる。真直ぐに長く敷かれた黒いビニールの列が一面に広がり、こうしてできあがった白アスパラの畑は目に圧巻である。

このジュセッペさんの畑は特に配置が整い、美しい。土とシートとの間に隙間風が入るだけでアスパラの穂先の色に影響するから、という気遣いが伺われるシートの完璧な被せ方とそこに配列される重しの数。さらには、この準備後、2-3か月ほど毎朝続く収穫作業が円滑に、行われるように作られた畝の脇の足場などを見ても、品質管理と作業性を考慮した、丁寧な作業が解る。

後ろに見える山と、街のシンボルである教会の鐘塔、彼の自宅と作業小屋を背景にしたこの畑の景色は非常に絵になり、同地の販促媒体にもよく利用されているほどだ。

収穫は夜明けとともに、被せてあるシートを取り外すことから始まる。春先のこの時期は日を追うごとに気温が上がり、その気温を感じて成長するアスパラは、とにかくデリケートな代物だけに、太陽の光に対しては非常に気を使う。その為、収穫直前にシートを外し、終了するとすぐに被せる、という作業が毎朝繰り返される。

収穫はまさしく“掘る”作業。アスパラ収穫には“3種の神器”があるのだが、そのうちの2種、長くて先端が平たく少し折れ曲がった細い鉄棒と、木製の平たいコテのようなパレットを使い、ジュセッペさんと奥さんのマリーザさん、そして2人の息子さんも仕事に出かけるまで作業に加わる。家族総出の作業だ。

土の上に少し顔を出した穂先の脇から土中に根元に向かって鉄棒を差し込む。根元を鉄棒の先に感じたら、そこに焦点をあててぐいっと少し力を加えて根元から切り、白アスパラを垂直に引っ張る。掘った後はパレットで元通りに土を慣らす。単純そうな作業だが、伸びてきたアスパラは根元にいくつも次なるアスパラの根を持っているため、それを傷つけないように作業は慎重さを要す。

土表に現れた白アスパラは、それぞれに太さや状態が違い、畝によっての差が顕著だ。それは苗の生育年数によるものからくるものであり、生産農家では、苗の状態を見て、来年以降またはその先までの苗植えの計画もする。アスパラの苗は植えてから3年後以降から少しずつ収穫、6-7年ほどの生育年数が理想的なアスパラになるとされるため、連続した長期計画が必須となる。

そして土から掘り起こしされたものはすぐに水に浸して、経時劣化を防ぐ。デリケートな白アスパラはとにかく乾燥を嫌うため、品質を保つために必ず行われるシンプルだが大切な工程。

その後、作業小屋にて太さと長さを確認しながら “3種の神器”の3つめの道具である、専用の筒を使って束をつくる。1kg用から3.5kg用まで、筒の直径の違うものがいくつかあり、用途に合わせて使い分けることができるよう、筒内に隙間なく並べることでおおよその目方に合わせられるようになっている。穂先を向こう側の壁に合わせて筒のなかにきっちりと並べ、筒がいっぱいになったところで、穂先側と根元側、2か所を縛って形を整える。

縛る素材の規定は、柳の若芽。剪定後のブドウの枝のレガトゥーラに使われる、それだ。イタリア語では“サーリチェ(salice)”と言うが、ここら辺の人たちは専ら“ストロッパ(stroppa)”というヴェネト風な呼び名のほうが定着している。最近では、ブドウの木に然り、他生産地のアスパラの束には、ビニールテープや輪ゴムなどが使われる場合が多いが、バッサーノでは絶対なる不可欠条件である。

大切な白アスパラが折れないように優しくも、しっかりと適度な力を加えながらストロッパを巻きつけ、結び目をつくる。この結び方には決まりはなく、各農家にて代々伝わる結び方がある、というのも面白い。ここで美しい一束となった姿、その存在感は抜群だ。

できあがった束は毎日集積所へ運ばれる。ここでは長さと重さ、束の作り具合、その他アスパラ自体の状態などのチェックを受け、されに等級別に選別され、ロゴとD.O.P.のマークの入った緑のタグと生産地及び生産者名を表記した黄色いタグがつけられる。こうして、ようやく、正式なるバッサーノ産白アスパラなる称号を得られる。

上級品の白アスパラは、ヘタな肉よりも高価なものとして扱われ、飲食店でもセコンドの皿のとして提供される、堂々たるものだ。

バッサーノでの伝統的な食べ方(アッラ・バッサネーゼ)は、「白アスパラと茹で卵」。地元の店でこの皿を注文すると、カメリエーレが運んでくるものは、茹でたての殻付き卵。それを「アッチアッチ」と言いながら殻をむいて皿の上にゴロンと載せ、フォークの背でつぶしながら塩と胡椒、地元産オイルと少々のアチェートで調味する。山盛りの茹でたて白アスパラがこんもりと皿に盛られたら、即席茹で卵ソースを熱々の白アスパラに添えて口に頬張る。柔らかく、甘く、新鮮な白アスパラのみが持つこの独特の風味と食感。穂先の旨さといったら形容し難い…。

手間と時間と、そして愛情をかけられた季節モノ。収穫の期間が短く、また時期が限定されているがため、希少商品価値高し。ゆえに生産者及び地域にとっても、重要な意味を持つ産物といえる。

収穫・出荷の期間は、サン・ジュセッペ(3月19日)からサンタントニオ(6月13日)まで。収穫時期が前倒しとなっている今年の白アスパラの季節はあと僅かだ。

 

 

 

Aki Shirahama
About Aki Shirahama (3 Articles)
ヴェネト州パドヴァを拠点に活動しています。
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