Cibreo@Firenze

「チブレオ」と聞けばその昔、西麻布のザ・ウォール内にあった高級リストランテを懐かしく思い出す方も多いことだろう。地下には外人メンズ・ダンサーのブリーフにチップを挟んで盛り上がるJメンズ・トーキョーがあり、ホブソンズは夜更けまでいつも行列していた。そんなバブルの思い出話に必ず登場する西麻布「チブレオ」の話をすると、フィレンツェの「チブレオ」本店のカリスマオーナー、ファビオ・ピッキはいつも苦い顔をする。

おそらくは20世紀後半のフィレンツェで最も成功したリストランテのひとつである「チブレオ」はサンタンブロージョ市場近くにある。本家であるリストランテ 「チブレオ」はじめ、トラットリアは通称「チブレリーノ」、「カフェ・チブレオ」そしてシアター・レストラン「テアトロ・デル・サーレ」と4店舗が集結したエリアはリトル・チブレオと化しているが、ディフュージョン、あるいはスピンオフというコンセプトは、フィレンツェではファビオ・ピッキが最初に導入し た。その人望が厚いことは教育が行き届いたスタッフの丁寧な応対を見れば明らかで、なによりもファビオの元で働く喜びに満ちているのが手に取るように分かる。ファビオ・ピッキはフィレンツェの食文化の語り部としても第一人者で数々の著作をはじめ、新聞、テレビなど、ことあるごとに食に関する意見を求められるご意見番でもある。

チブレオの特徴は一言でいうと錬金術である。いや、それは食材を金に換える、という意味の錬金術ではなく、15年前に初めてファビオ・ピッキにインタビューしたとき「料理とは素材と素材を組み合わせて何か別のものを作り出す錬金術であるべきだ」といったことに由来する。 その象徴的料理がズッパ、パッサート、ジェラティーナなど素材のテクスチャーを変える一連のパッサート料理である。最近は例外もあるようだが、基本的に 「チブレオ」はパスタの無い店として知られている。それはファビオにとって最高のパスタとは母が作ったパスタであり、自分ではそれを越えることが出来ないからパスタは出さない、と公言しているからである。

ニンニクとヴィネガーのきいたガスパチョをゼラチンで固めたような前菜ジェラティーナ・ディ・ポモドー ロやリコッタのフラン、自家製のムースなど一連の裏ごし料理から始まり、パッパ・アル・ポモドーロやセッピエ・インツィミーノへと続くゆるめの錬金術料理 が「チブレオ」の真骨頂だが、それは昨日今日生まれた料理ではなく、何百年も庶民の間で作り継がれ食べ継がれてきたトスカーナを代表するクチーナ・ポー ヴェラである。そういわれてみると確かにパッパ・アル・ポモドーロやリボッリータ、はたまたクロスティーニ・ディ・フェーガトなど、トスカーナを代表する料理にはテクスチャーがゆるめの料理が多い。さまざまな技巧を組み合わせて料理を新次元に昇華させるスペイン・クリエイティヴが突然変異的に生まれた天才たちの料理だとしたら、ファビオ・ピッキが作るチブレオ風トスカーナ料理は、それとはまったく逆のベクトル、あくまでも伝統に裏付けされた、きわめてオーソドックスな思考を持つトスカーナ料理なのである。

Cibrèo ristorante
Via de' Macci, 122r Firenze Tel:055-2341100

Cibrèo trattoria
(detta il Cibrèino)
Via de' Macci, 122r Firenze

Caffè  Cibrèo
Via del Verrocchio, 5r Firenze Tel:055-2345853

http://www.edizioniteatrodelsalecibreofirenze.it/