Locanda del Cuore@愛媛県東温市

愛媛県東温市は県庁所在地である松山市から電車で約20分。松山市のベッドタウンとして近年人口が増加、2004年に重信町、川内町が合併し東温市となった。その東温市にロカンダ・デル・クオレLocanda del Cuoreという小さなイタリア料理店がある。オーナーシェフの青江博氏はピエモンテやロンバルディア、リグーリアなどで研鑽を積み、2008年に「心の料理旅館」ロカンダ・デル・クオーレをオープンした。

イタリアで普段取材していると、地方のレストランや生産者ほど地元同士の結びつきや横のつながりが密接なことにあらためてきずかされる。それは草の根運動といいかえてもいいもので、村おこし、あるいは地方活性化という大義名分の下にはじまったものではなく、ごくごく自然発生的に生まれ、発展していったものが多い。

イタリアにはサグラという地元の食材をテーマにした村祭りが数多く存在するが、それは誰かが考えたコンセプトから生まれたものではなく、トリュフなりカルチョーフィなりズッパなりトルテッリーニなり(以上全て現存する地方のサグラ)その地に根付いてきた名物としての料理、食材を世間に広く知ってもらいたい、そういうストレートな欲求にもとづいてはじまったものである。地産地消、キロメトロ・ゼロというのはイタリアに限っていえばごくごく当たり前のこと。イタリア統一は1861年とフランス、スペインに遅れることはなはだしい。しかも近代国家としてのイタリアは中央集権国家として生まれ変わったのではなく、あくまで地方分権、都市国家の集合体として誕生した。元来別々の国家だったのだから風土や文化はもちろんのこと、料理も食材も異なって当たり前。ゆえに地方ごとに料理や食材のバリエーションが豊か、それがイタリアという国の構造なのである。

現代イタリア料理界の巨匠ジャンフランコ・ヴィッサーニはいう「イタリアにはトスカーナ料理やシチリア料理といった州料理は本当の意味では存在しない。 な ぜなら州という概念が生まれたのはイタリア統一後のことだが、郷土料理はそれ以前から存在していた。正しくは郷土料理、地方料理というべきだ」

青江氏はそういった意味では非常にイタリア的な料理人である。地元に根ざし、ハーブやイタリア野菜を作る生産者が近くにいればイタリア料理にどう使うのか実際に会話し、あるいは料理を食べてもらい感想を聞いてみる。柑橘類を作る農家がいればイタリアのオレンジはどうか、そしてどう使うのかを会話し、情報を交換する。そうした点が青江氏を中心に線となりつつあるがそれはなによりも彼の人柄ゆえである。コンセプトとかマーケティングとか、そういう言葉ありきではなく、なによりもサグラ本来の精神である地元愛、そしてイタリアへの偏愛にも似た情熱が愛媛の人々をイタリアへと向かわせている。ロカンダ・デル・クオーレに集まる人々もイタリア料理というフィルターを通じてイタリアに興味を持ち、やがてはイタリアを旅するようになった人も少なく無い。いわば彼の日常イコール愛媛イタリア化計画なのだが、今回はその関わりをさらに一歩前進させ、東温市から愛媛全体へと発信する予定なのである。