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イタリアブックレビュー:La Grammatica dei Sapori

SaporeとGustoの違いから学ぶ素材の組み合わせ基本原理

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素材の組み合わせに、基本原理はあるのか。おそらく、多くの人はあると感じているだろう。それを解明しようと実際に科学的なアプローチを試みている研究者もいるし、そうではない一般人でも、経験的にどれとどれを組み合わせれば美味しくなるか大なり小なり知っている。科学者と一般人の間に位置する料理人は、科学的アプローチと経験則の両方を取り入れる機会を多分に有している。どちらにより比重をかけるかはその人それぞれだろう。ほとんど経験だけに従い、なぜその組み合わせが“美味しくなる”のかを考えたことはないという料理人も多い。そして、天性の勘がその腕を助け、無邪気な美味しさを作り出しているパターンもまた多い。

もし、素材の組み合わせを端的に解説する辞書のようなものがあったら、料理人に限らず、料理が好きな多くの人々にとって便利なことには違いない。イギリスで飲食業界のマーケティングに携わるNiki Segnitという女性が著した「La Grammatica dei Sapori (原題The flavour thesaurus)」はまさにそんな1冊だ。主だった素材をその主要な風味に注目して16のカテゴリーに分類し、カテゴリーごとの個々の素材が他の素材と合わさることによってどのような味を作り出すか、時に歴史的背景も織り交ぜながら説明している。たとえば、チョコレートやコーヒー、落花生はtostati(焙煎した)の風味を持つものと分類し、さらにチョコレートに組み合わせるものとして、落花生(tostati)、ベーコン(sale e salamoia=塩漬けと塩水漬け)、カルダモン(agrumati=柑橘)、栗(di bosco=森の)等アルファベット順に挙げて各解説していくという仕組みだ。

表紙の見返しに16のカテゴリーに分けられた素材がカラフルに色分けされた円グラフで表示されているので、まずは目指す素材をそこから探し、そのカテゴリーのページへ進むか、もっとピンポイントで組み合わせを見たいときは索引から当該ページを見ることもできる。あるいはそんな目的がなくてもヒマつぶしに適当に開いてみてもいい。文字のみで図版はないが、鮮やかな装丁(小口はショッキングピンク)と見やすい書体のおかげか、なんとなく手に取りたくなるから不思議だ。カテゴリーの分け方には異議を感じる人もあるかもしれないが、それはやはり、味というものが持つ曖昧さゆえ仕方のないことである。著者も、味覚には個人差があり、言葉に描写することはとても難しいと書いている。

その話のなかで興味深く感じたのは、saporeとgustoの違いについての解説だ。ワインの勉強をすると必ず最初に頭に入れなければいけないので知っている人は知っているが、一般的にsaporeとgustoは混同されやすい。gustoは口中で主に舌で知覚できる、甘味、鹹味、酸味、苦み、旨味の五つの味覚で表現されるもので、saporeとは口中の嗅覚によって知覚されるものである。食べ物の味を“わかる”には、五つの味覚で感知するgustoだけでは不十分で、口中の嗅覚で感じるsaporeも加わって初めて完結する。日本語を当てはめるとすればsaporeは風味を、gustoは味を示す言葉だろう。いずれにしてもどちらが上級ということではなく、お互いが補完的に作用しているということを理解した上で、このgrammatica(文法、または基本原理)を読み解いてほしいと著者は語る。

イタリア人による著作でないため、扱う素材はイギリス的な偏りも若干見られるが、それでも辞書としてはまずまず普遍的だ。索引も含めて393ページ、間違いなく労作であり、料理に興味がある者なら手元に置いておいて損がない一冊だろう。

About Manami Ikeda (314 Articles)
大学卒業後、出版社に就職。女性誌編集に携わった後、98年に渡伊。以来ずっとフィレンツェ在住。取材とあらばどこにでも行きますが、できれば食と職人仕事に絞りたいというのが本音。趣味は猫と工場見学。
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