肉屋ファロルニのビジネス・モデル

フィレンツェよりキャンティ街道を南へ向かうこと約30分。キャンティ最初の町グレーヴェ・イン・キャンティにある名物肉屋がマチェッレリア・ファロルニMacelleria Falorniだ。1806年の創業以来9代に渡って肉屋を営む老舗中の老舗は、おそらくイタリアで最も名の知られた肉屋である。試しにyahoo.ITALIAの検索で「MACELLERIA」と打ってみれば、候補として最初に表示されるのが同じキャンティの「カリスマ肉屋」ダリオ・チェッキーニ。ついでミラノ近郊の肉屋レストラン「モッタ」、ついでファロルニ、となっている。

このファロルニ、とにかく店内に一歩足を踏み入れて見ればそのスペクタクルな光景に思わずたじたじとなるだろう。天井からぶら下がっているのは無数のサラミと生ハム。ショーケースには骨付きのビステッカがずらりと並び、サラミ類ならなんでも揃う。さらに必見の地下の氷室にはペコリーノやグアンチャーレが秘伝のカビとともに熟成を重ねている。しかし、ただそれだけではあまたの競合がひしめくイタリアでナンバーワンにはなれない。何よりもファロルニはその企業戦略で絶対王者の座を保っているのである。

かつて狂牛病の影響で骨付きTボーン、ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナが禁止された時期があったが、その際現当主兄弟のひとりステファノ・ファロルニはトスカーナが誇る肉文化の重要性をさまざまなメディアで訴えたことがあった。このころからすでにファロルニは単なる肉屋ではなく文化を発信する「総合マチェッレリア」となりつつあった。同じグレーヴェにキャンティ・クラッシコのテイスティングと販売をする「ワイン博物館」をオープンし、店内ではすでに真空パックされた生ハムや、パニーノ、さらには生ハムのジェラーと食品はじめさまざまなオリジナル商品を開発し、訪れるたびにますます拡大するファロルニ王国の勢いにいつも圧倒される。

8月に訪れた時にはなんと店の前にテラス付きの「ビストロ・ファロルニ」がオープンしていた。これは生ハムやラルドなど、店内で売っているサラミ類などを気軽に食べられるオステリアで、ついにファロルニでイートインまでできるようになったのである。ここまで来たか、ファロルニ!!一人当たりの客の滞在時間に売上は比例する、というセオリーに基づけば、従来テイクアウェイのみだった客はさらにファロルニでワインを飲んでランチを食べる、という大いなる円環が出来上がりつつある。こうなると次回訪れた時になにができているのか、というのがリピーターの楽しみだが、わたしがプロジェクトを進めるなら、さらに夕食を楽しんでグレーヴェに一泊してもらうプランを導入する。つまりホテル・レストランしかあるまい。できれば動物を間近にみれるアグリツーリズモの形態がベストで、夜は暖炉の回りでビステッカやサルシッチャを焼いて食べるようなシステムにすればなお収益が上がることと思う。

来年以降ファロルニを訪れる際、新形態が果たしてなんなのか?推察しつつ旅すれば、旅はさらに楽しくなるはずである。

Masakatsu IKEDA
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池田匡克 Masakatsu IKEDA ジャーナリスト 1967 年東京生まれ。出版社勤務後1998 年イタリアに渡り独立。旅と料理のビジュアル・ノンフィクションを得意とし、イタリア語を駆使したインタビュー、取材、撮影、執筆、講演活動を日本、イタリア両国で行う。主な著書に「シチリア美食の王国へ」「イタリアの老舗料理店」「サルデーニャ!」「フィレンツェ美食散歩」「アマルフィとカプリ島」「Dolce!イタリアの郷土菓子」「世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ」など多数。 2003年度「シチリア美食の王国へ」がイタリア文化向上に貢献した出版物に送られるマルコ・ポーロ賞(イタリア文化会館主宰) 最終候補作品にノミネート 2005年よりイタリア国立ジャーナリスト協会所属 2011年株式会社オフィス・ロトンダ設立。現在代表取締役 2014年日本初のイタリアの旅と料理をテーマにしたWEBマガジンSAPORITA設立。国際料理大会Girotonno、Cous Cous Festに日本人として初の審査員に選ばれる

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