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Antico Vinaio@FIRENZE

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フィレンツェのヴェッキオ宮殿裏にのびるVia dei Neriで、パニーノを待つ行列を見たことがあるだろうか?それまでフィレンツェで行列ができる店、というとサン・ロレンツォ中央市場のネルボーネが有名だったが、近年その勢力図は変化した。Trip Adviserのフィレンツェ・レストラン部門第1位、世界でも3番目にカキコミが多いという「アンティコ・ヴィナイオ Antico Vinaio」の登場である。2014年10月22日現在で4990年のレビュー。Trip Adviserのレビューの信頼性はひとまずおいておいておくが、とにかくネットの威力はすさまじく、いまや文字通り世界中の観光客が朝から行列を作る店、となったのだ。

昔からのフィレンツェを知る人にとってアンティコ・ヴィナイオは、「メッシタ」あるいは「ヴィナイオーロ」と呼ばれる、立ち飲みワイン専門店だった。それが1999年に現在のオーナー、Daniele & Tommaso Mazzanti親子の経営になってからとにかくパニーノに力を入れ、イタリアにおけるストリートフードの殿堂的存在まで昇りつめたのである。

アンティコ・ヴィナイオのパニーノは同じフィレンツェの「INO イノ」に代表されるような「グルメ・パニーノ」あるいはローマの「Bonci ボンチ」のような「長時間発酵」という独自のキーワードとはひと味違う計算された「ローコスト」で勝負している。長い行列を終えてようやく店内に入ると「プロシュート、ポルケッタ、モルタデッラ、etc…5ユーロ」とあるが、こうしたパニーノはひとつひとつ注文を聞きながらの手作りである。いくら長蛇の列ができているとはいえサービスエリアや空港のバールAutogrill、あるいは変わってしまったミラノのルイーニのような作りおきのパニーノが山盛り、という光景はここにはない。

たとえ「ポルケッタ」と頼んでもダニエレ、あるいはトンマーゾが「それだけじゃつまらない。モッツァレッラを入れるか?ペコリーノはどうだ?野菜はペペローニとルーコラでいいか?」というようなやりとりが毎回交わされる。こうしたトッピングは追加料金なのかと思いきや、そうしたもろもろわがままな注文を全て加味しても値段は変わらず5ユーロ。しかもそのボリュームたるや、具がはみ出さんばかりにこれでもか、と挟まれている。そうした間にも厨房の奥から次から次に焼きたてのフォカッチャが運ばれて来るのだが、それもあっという間になくなってしまうのだ。

このムーブメントを冷製に分析するといくつかの興味深い点が見受けられる。ひとつは、従来のアンティコ・ヴィナイオの向かいにあった古いターヴォラ・カルダを買い取ったこと。そのおかげで奥の厨房でフォカッチャを自家製造することが可能になり、8時から23時までノンストップという長い営業時間の間中、常時パニーノを供給し続けることを可能にしたこと。

そのフォカッチャは、生地はむっちり詰まっていて食後感は非常に重い昔のスタイル。発酵ガスを多く含ませた軽くて胃にもたれないローカロリー、ローコストという現代の嗜好とはあえて真逆の方向「ドカ盛りパニーノ」を打ち出して成功した例であること。

野菜などのボリュームがあるのはいいことだが、メイン食材は決して大盛り、というわけではない。プロシュートやポルケッタは注文が入ってからスライサーでカットするが、それは非常に薄く、中央市場の「Pork’s」の手切り、厚切りポルケッタ・パニーノを想像していたら拍子抜けしてしまうかもしれない。そのあたりコストとボリュームを考えたコンセプトは日本のラーメンにも相通じる点があるようにも見えるが、パスタ以上の国民食パニーノの世界は奥が深い。

かつて美食家ブリア・サヴァランは「きみがどんなものを食べているかいってみたまえ。きみがどんな性格かいいあててみせよう」といったが、フィレンツェにおいてはそれがパニーノに置き換えられる。「きみが普段どこのパニーノを食べているかいってみたまえ。きみの趣味指向をあててみせよう」たかがパニーノ、されどパニーノ。

匡克 池田
About 匡克 池田 (1159 Articles)
1967年東京生まれ。イタリア国立ジャーナリスト協会会員、フォトジャーナリスト。日本で出版社勤務後独立、1998年よりフィレンツェ在住。「シチリア美食の王国へ」「イタリアの老舗料理店」「フィレンツェ美食散歩」「伝説のトラットリア、ガルガのクチーナ・エスプレッサ」など著書多数。2011年に池田愛美と株式会社オフィス・ロトンダ設立。国際料理コンテスト「Girotonno2014」「Cous Cous Fest2014」で日本人初の審査員となる。 http://www.office-rotonda.jp https://www.facebook.com/ikedamasa
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