Un Posto a MILANO@MILANO

イタリアで最も重要なレストラン・ガイド「Gambero Rosso」の2015年度版は間もなく発売されるが、ミラノに誕生した新たなトレ・ガンベリ、つまりトラットリアの最高峰に位置する3本エビを授与されるミラノのニューカマーの名はすでに発表されている。それは他都市に先駆けミラノ編のガンベロ・ロッソが7月に発売されているからだ。すでにトレ・ガンベリを獲得していた「オステリア・デル・トレーノ Osteria del Treno」に続き、栄誉あるミラノ市内2件目のトレ・ガンベリ・ホルダーとなった店は「ウン・ポスト・ア・ミラノ Un Posto a MILANO」という。

ミラノ市内南東部、ポルタ・ロマーナの先に「カシーナ・クッカーニャ」という名の複合施設がある。元々はカトリックの団体、ファーテベーネ・フラテッリが1722年に作った薬草園だったが、1920年頃には「クッカーニャ=桃源郷」という名で呼ばれるようになり、職人の工房やオステリアが集う複合施設になった。1984年にはミラノ市の所有となったが、現在も市内に約50ケ所ある「カシーナ」再開発のモデル・ケースとなったのがこの「クッカーニャ」なのである。「クッカーニャ」では今もボランティア・スタッフが中心となって自家菜園で野菜を育てて子供たちに植物にふれあう機会を提供し、親子で集えるさまざまなイベントを企画・運営する。そしてその「クッカーニャ」内にオープンしたのが、自家菜園とビオ、あるいはビーガンをつらぬくトラットリア「ウン・ポスト・ア・ミラノ Un Posto a MILANO」なのだ。

ミラノらしい、という言葉が似合うその空間には知的な空気が満ちており、大食漢を満足させるような、たとえばコトレッタやオッソブーコというハイエナジーな料理は無い。パン、パスタに使う小麦粉はビオ。野菜、果物は全てビオ。オリーヴオイルはEXVのみ。肉と卵もすべて自然放牧、自然飼育で育てられたもののみを使用している。メニューには「ベジタリアン」あるいは「ビーガン」マークが記されているが決してベジタリアン・オンリーというわけではなく、ブロイラーでない若鶏のグリルは自家菜園のサラダと一緒に登場し、とても上質。マスタード・シード入りのジャガイモのクロケッタもとても自然な味わいだった。自家菜園というと先輩トレ・ガンベリ・ホルダーで2014年8月に閉店した「ロカンダ・アル・ガンベロ・ロッソ」を思い出すが、それよりもさらに一歩進んで「ビオ」と「ビーガン」というコンセプトを取り入れた史上初のトレ・ガンベリ。メニューも難解なのである程度の食材の知識とイタリア語力が要求されるが、現代のミラノのトレンドを知る上では外せない店のひとつであり、行政と美食が手を組んだ希有な成功例からは学ぶべき点が非常に多い。