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Barilla Insieme Day

食の未来を考える

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去る10月7日、パルマのバリラ社において、ジャーナリストやマーケティングなど食分野の活動に携わる人を対象とした一日セミナー「Barilla Insieme Day」が開催された。会場はパルマ市内にあるアカデミア・バリラ、100人収容のホールがほぼ満席となる参加者が集まり、「これからの食のありかた、その問題と解決」について学んだ。講師として登壇したのは、ナショナル・ジオグラフィック・イタリアのディレクター、宣教師ジャーナリスト、副社長でバリラ社の“顔”であるパオロ・バリラ氏、ブレーシャのレストラン「Dispensa Pani e Vini」の料理人ヴィットリオ・フザーリ氏、そして、山形「アル・ケッチャーノ」の奥田政行氏である。

バリラ社は、第二次大戦後の復興期に急成長を遂げたイタリア有数の食品メーカーだが、カリスマと呼ばれたピエトロ・バリラ社長が亡くなった90年代前半以降、それまでの成長一辺倒の時代から、リーディングカンパニーとしての責任を見直す動きに入った。食物を作るということは、少なからず環境にインパクトを与えることである。農業によって得られる原材料の育成には、水を使い、燃料を使う。輸送や製造にも燃料を使い、CO2を排出する。一つの食品を製造することで、環境にどれだけの影響を与えるのか、その影響をどこまで低減できるのかを考え、実行に移せるか。それが未来志向の企業の責務であると唱える。

バリラ社は「Buono per te, Buono per il pianeta」(あなたに、そして地球においしい)を掲げている。この場合のbuonoは、食味としてだけでなく、健康や環境にとって良いという意味をも含んでいる。さらには、人類全体における貧困と過剰供給の問題にも言及する。大消費地である先進国に搾取される原材料供給国、先進国では毎日大量の食べ残しや売れ残りが処分され、一方で満足な食料が得られず飢えに苦しむ貧困国があるという矛盾した実態をいかに解決していくか。大きくて厄介なこの問題は、誰かが解決してくれるというものではなく、一人一人が自分のこととして考えていかねばならないものだ。

2015年ミラノで開催されるエキスポのテーマは「Nutrire il Pianeta, Energia per la Vita」(地球に食料を、生命にエネルギーを)。この会期中、地球全体として食料をいかに製造し、供給し、人々の栄養状態を普く健康にし、同時に環境に配慮するかについての提言「ミラノ議定書」が承認される予定である。この素案はバリラ社が作成している。一企業による提案が議定書として採択されるのは珍しいことであると、先のサローネ・デル・グストでのカンファレンスで、スローフード協会のカルロ・ペトリーニ氏も言っていたが、企業には企業ならではの社会的責任があり、それを実践しようとするのは考えてみれば当たり前のことだ。

企業には資金力があり、その資金でもって多くの人に働きかけることができる。たとえば、各地で勉強会を開くこと。子供、大人それぞれを対象に、食にまつわる現状と問題を知る機会を提供する。たとえば、イタリアで今もっとも問題になっている、毎日大量に廃棄されるパンについて。レストランで出されるパンをほんとうに必要なだけ消費するにはどうしたらいいのか。スーパーで売れ残ったパンは、保健所の指導で廃棄することになっているが、ほんとうにそれでいいのかどうか。Spreco dei cibi(食べ物の無駄づかい)を考えることから始めると、自然と食糧問題全体を考えることにつながっていく。クレヴァーな消費者を作ることは、企業にとって上客を得ることだ。自信を持って作るものが正しく評価されるからだ。

食育が知られるようになって久しい。日本でも食育を実践している料理人が何人かいる。その一人が「アル・ケッチャーノ」の奥田さんだ。食育の対象と方法はさまざまあるが、奥田さんは子供から若者、地元の生産者まで多様な人々とともに、特に地品種についての知識を共有し、土地本来の多様性の保護育成に尽力している。イタリアでも“キロメートル0”(地産地消)への注目度は高まっているが、食料自給率が先進国としては異常に低い日本での奥田さんの活動は、イタリアよりも苦労が多いだろう。大規模農業とハウス栽培を見直そうという気運が少しずつ高まっているというが、国も食に携わる企業もそして個人もが、日本をはじめ世界の食の未来について考える機会がもっとあっていいのではないだろうか。

 

About Manami Ikeda (314 Articles)
大学卒業後、出版社に就職。女性誌編集に携わった後、98年に渡伊。以来ずっとフィレンツェ在住。取材とあらばどこにでも行きますが、できれば食と職人仕事に絞りたいというのが本音。趣味は猫と工場見学。
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