Checchino dal 1887@ROMA

かつて「イタリアの老舗料理店」という本を書いたとき、北中部イタリアを中心に創業100年以上のトラットリアを20軒ほど取材で食べ歩いたことがあったが、この「ケッキーノ・ダル1887」は最も強く印象に残っている店の一軒である。いまでこそ、いわゆるホルモンをさすイタリア語「クイント・クアルト」(=牛や豚を4分割した5番目つまり内臓などのホルモン)という言葉を聞いたのもこの店が最初だった。ローマを代表する内臓料理であるパイアータ、あるいはコーダ・アッラ・ヴァチナーラやトリッパ、グリーチャといった伝統料理は、屠殺場があったテスタッチョで働く職人たちが必要に迫られて生み出した料理であった。「ケッキーノ・ダル1887」はそのテスタッチョで家族代々5代に渡り正統派ローマ料理を作り続けている。

店の地下にはローマ時代のテラコッタのがれきが今も壁の一部として使われており、天然のセラーとなっている。乳飲み子牛の小腸を使ったパイヤータや、セロリとクローブが強烈に効いたコーダ・アッラ・ヴァチナーラはまごうことないローマの味であり、「ケッキーノ・ダル1887」を越える店は未だにないと信じている。昨日今日生まれた店には無い伝統が織りなす力と何万回も作り続けてこそできる味、日本のイタリア料理店がいかに進化を続けていても、唯一越えられないのが時間の壁であり、創業100年を越えるイタリア料理店は日本にはまだ存在しない。継続は力なり、唯一無二の料理の神髄を味わうことができる、それがイタリアの老舗なのではないかとつくづく思う。