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『クイント・クアルト』肉料理礼賛

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本来一皿で完結するべきパスタが第一の皿、第二の皿、とコース料理に取り入れられるようになってからイタリアのパスタはアイデンティティを失ってしまった、といったのは19世紀から20世紀にかけて活躍した作家であり美食家であるペッレグリーノ・アルトゥージだった。時は流れて21世紀の現在、それよりもよく耳にするのが、イタリア料理は前菜、パスタは美味しいけれど、セコンドの肉料理で失速する、という前述のアルトゥージのパスタ論に対するアンチテーゼである。千変万化、華やかなりしパスタのバリエーションに比べてイタリアの肉料理は焼いただけ、煮込んだだけ、というよくいえばシンプル、逆にいえばパスタほどの歴史と必然性を持ち合わせていない、と指摘されることも多い。確かにパスタとは、地域と民族の特殊性がモザイク状に幾層も折り重なった、イタリアの歴史そのものであるとするならば、セコンド=肉料理の立ち位置とは一体なんなのだろうか? ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ、タリアータ、スカロッピーナ、などは上質の正肉をシンプルに調理した肉料理の花形であるが、近年ではそれよりもクイント・クアルト、いわゆる内臓料理がイタリアでも再評価され、郷土料理のアイデンティティとして注目を浴びることが多い。

クイント・クアルトとはイタリア語で動物を4分割した(クアルト)5番目の部位(クイント)という意味を持つ。つまり頭や内臓など、日本語でいう 「ほおるもん=ホルモン」と全く同じなのである。このクイント・クアルトは特にローマでよく使われるが、それはローマの下町テスタッチョに由来する。テスタッチョ地区に屠殺場が出来たのが1890年。同地区には1887年創業で今も続く老舗トラットリア「ケッキーノ」があるが、当時は屠殺場に働く男たちが 店の常連客だった。男たちは夕方になると「ケッキーノ」にさまざまな部位の肉を持ち寄って集まり、調理してもらっては家に持ち帰って食べていたという。というのもこの時代、屠殺場で働く労働者たちは、売れ残った牛豚の内臓や頭、足、しっぽなどを日当の一部として配給されていたのである。そうした「クイン ト・クアルト」から生まれたのが、イタリアを代表する肉料理である、牛テールを煮込んだ「コーダ・アッラ・ヴァッチナーラ」であり、「ローマ風トリッパ」 やパスタならば子牛の小腸を使った「パイアータ」である。

フィレンツェでは「クイント・クアルト」という言葉を聞くことはまれだが、伝統の内臓料理屋台「トリッパイオ」が今も現役で頑張っている。牛の胃袋であるトリッパ、ランプレドットはいずれもフィレンツェを代表する味で、ランプレドットのパニーノは昔から続くファーストフードだ。豚の耳や牛タンなど を使ったサラミにソプラッサータがあり、鶏のレバーを使った「クロスティーニ・トスカーニ」も同じくフィレンツェを代表する内臓料理である。最近では原点回帰とばかりにアルトゥージの料理書に基づき「アルトゥージ風トリッパ」「アルトゥージ風オッソブーコ」などを出す店もあるなど、没後100周年を迎えてもなお、イタリア料理に喝を入れ続けるご意見番として、アルトゥージの存在はますます高まっている。

(2013年ダイナースクラブ・イタリアン・レストランウイーク公式サイトCi Sono収録)

Masakatsu Ikeda
About Masakatsu Ikeda (1148 Articles)
1967年東京生まれ。イタリア国立ジャーナリスト協会会員、フォトジャーナリスト。日本で出版社勤務後独立、1998年よりフィレンツェ在住。「シチリア美食の王国へ」「イタリアの老舗料理店」「フィレンツェ美食散歩」「伝説のトラットリア、ガルガのクチーナ・エスプレッサ」など著書多数。2011年に池田愛美と株式会社オフィス・ロトンダ設立。国際料理コンテスト「Girotonno2014」「Cous Cous Fest2014」で日本人初の審査員となる。 http://www.office-rotonda.jp https://www.facebook.com/ikedamasa
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