元気なお母さんの店La Taverna del Duca@Locorotondo

プーリア州ロコロトンド。世界遺産の町アルベロベッロの隣、この界隈に多い”白い町”の一つだ。夏の暑い日射しをあびてまぶしいくらいに輝く白い町は、日中は高い気温を避けて人々は出歩かない。静かな路地の裏のまた裏を彷徨っていると突然賑やかな声が聞こえてくる。そこは、元気なお母さんAntonellaが切り盛りするトラットリア、La Taverna del Ducaだ。はい、あんたたちはそこ!と指さされた席につく。カラフルな絵皿(絵の具をふりちらした柄。赤の場合はかなりスプラッタな感じ)、カラフルなガラスコップ。白い壁とさまざまな色が織りなすコントラスト。それでも、滅茶苦茶にならないぎりぎりのラインでとどまって、それなりにまとまっているから不思議だ。

Antonella母さんが、前菜はおまかせで良いかというので、もちろん従う。パンツァネッラ、地元産のカポコッロとフォルマッジョ、トマトを使わずにんじんとじゃがいもが入ったカポナータ、フェンネルのオーブン焼き、薄切りにして軽く塩をまぶしミントを加えたズッキーニのカルパッチョ、ナスのパン粉焼き。少しずつ、テンポよく出てくる。ほとんどが野菜料理というところが、野菜大国プーリアらしい。プリモはどうする?と言うので、候補を聞いて、ファーヴェ・エ・チコーリアとオレキエッテにする。乾燥そら豆のピュレに蒸らし炒めしたチコーリアを添えた一皿はこの地方の伝統料理だが、ここでは季節のそら豆を使い、チコーリアと一緒にミキサーにかけるらしく、全体が淡い緑色になって見目麗しい。オリーブオイルを回しかけるとさらに輝き風味ともにアップ。前菜とプリモの中間のような立ち位置で、こういう料理はほかの土地ではなかなかない。次のオレキエッテは仔牛のインヴォルティーニを煮込んだラグーが表面にたらんとかけられて登場。ほとんど油脂を感じないあっさりとしたラグーで、しこっとした食感のオレキエッテとあいまって素朴でしみじみとした味わいだ。そろそろお腹も落ち着いてきたが、やはりセコンドは食べておきたい。というわけで、ロバのストラコットを。低めの温度で香味野菜とともにじっくりと時間をかけて煮込んだロバの肉は、Antonella曰く、オスだかメスだかわからないがとにかく年寄りロバらしいが、ちょっと信じられないくらいに柔らかい。くせもなく、じんわりと旨味がしみだしてくるロバ。働いて働いて、最後は人間の胃袋におさまるロバ。あの哀愁に満ちた目を思い出し、成仏を祈る。

カウンターに巨大なカボチャが鎮座していたので、これはどうするのかと尋ねると、なんでもできるわよ、前菜、プリモ、セコンドからドルチェ、保存食まで。カボチャのフルコースが食べたかったら2、3日前には予約してよ、とAntonella。カボチャ百珍@プーリア。ネタには良いかもしれないが、カボチャ嫌いになりそうな気もする。まだプーリアを回るなら、Grottaglieに行きなさいよ、陶器の町よ、うちの器も全部そこから来てるし、なんなら陶器界のボスを紹介するわよとまで言ってくれる。お母さんの言うことを聞かないわけにはいかない雰囲気。時間があったら回ってみますと礼を言って店を後にした。このお母さんのもとには必ずまた戻ってこようと誓いながら、そして、Grottaglieにはたぶん、行けないだろうなと思いながら。ところがそのあと、事態はお母さんの言うとおりになるのだ。続きはまた次回。