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航海図という名の魚貝料理店Portolano@Gallipoli

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モンダドーリ社のガイドブックは写真や図説が豊富で、町の成り立ちや見どころがわかりやすくて便利である。何よりグラフィックデザインが美しく、見ているだけで旅情をそそられる。巻末にはちょっとした工芸品情報が載っていて、「プーリア」編には、ガッリーポリは漁師が作る籠で知られているとあった。籠好きとあらば見逃せないと、店や工房のあてもなく訪れたのが6年ほど前だったか。その時は一軒だけ、漁師を退いたおじさんが物置のような場所で籠を編んでいるのを見つけた。今回再び来てみると、そのおじさん以外にも何軒か籠編みの店ができていた。引退してヒマだし、でも、ちょっと売れるみたいだからやってみようか、そんな感じなのだろう。だから、店というにはおこがましいほどの、物置かガレージのような場所でただ籠を編んで雑然と並べている。葦を編んだ籠は、針金や漁の網に使われるような丈夫なナイロン糸も動員した、見た目よりも実用を重視した作り。籠には繊細な女編みと頑丈な男編みがあると思っているが、ガッリーポリの籠は典型的な男編みである。飾るよりも使って使って使い倒すことが望まれる籠だ。

ガッリーポリの旧市街は石灰岩でできた島である。アンジュー家が築いた城塞も、島の外周を覆う城壁もすべて明るいベージュ色の石灰岩で造られている。空も海も透き通って青く、ベージュ色の石灰岩と競うように陽光を跳ね返してくる。小さな島だから、一周ぐるりとしてもたいした距離ではないが、直射と反射のダブル攻撃を受けると結構疲れるのだ。日光浴が大好きなヨーロッパ人とは違うので、休憩は日陰のテラスがある店にする。散歩中に目星をつけておいたPortolano。観光の街だからレストランは結構多いが、惹かれる店は少ない。その中で、ここはメニューがシンプルで、なんとなく“安全”な気がしたのだ。ほんとうはもう一つ、港近くの小さな魚市場にある食堂も気になっていたのだが、気持ちいい風の吹くテラスの誘惑には勝てなかった。

結果的にPortolanoで正解だった。なにしろ、料理が出てくるリズムがいい。前菜を適当に持ってきてもらったのだが、あっという間に10種類ほどが次々とテーブルに並べられた。歩き疲れてぐったりした気分が一気に攻勢にシフト。鰯のマリネ、茹で蛸のバルサミコ風味、白身魚のマリネ、鯖のエスカベーチェ、蛸とじゃがいものトマト煮、イカとえびのピットゥーレ(フリッテッレ)、ムール貝のパン粉焼き、ムール貝のマリナーラ、小えび入りサフランライス、カポナータ。大皿に盛られた料理が気持ち良いほどになくなっていく。その勢いをかってプリモを二種類、海の幸のシャラテッリとアンチョビのスパゲッティーニ。もちもちとしたシャラテッリもさることながら、イカの入った焼きそばのようなスパゲッティの旨さに日本人はノックアウト。プーリアのアンチョビ焼きそばとして全員の心に刻まれた逸品となったのである。

ただ最後に、店の主人のおすすめに従って頼んだチェードロ(シトロン)のソルベはいただけなかった。人工的なペパーミントグリーンのソルベを見て躊躇する我々に、店の主人が「これで作ったんだよ」と見せてくれたのは鮮やかな(毒々しい)緑色のチェードロシロップ。かき氷にかけるシロップだと思えば納得の昔懐かしい味なのだが...。しかしこれも旅の思い出、また一つ良い経験をさせてもらったのだと店を後にした。

 

About Manami Ikeda (323 Articles)
大学卒業後、出版社に就職。女性誌編集に携わった後、98年に渡伊。以来ずっとフィレンツェ在住。取材とあらばどこにでも行きますが、できれば食と職人仕事に絞りたいというのが本音。趣味は猫と工場見学。
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