ローマ下町料理を紐解く その8 Puttanesca

スパゲッティ・アッラ・プッタネスカ、訳して娼婦風スパゲッティの発祥は、ラツィオ州とする説とカンパーニア州だとする説がある。ラツィオ説の謂れははっきりしないが、カンパーニア説には幾つかもっともらしいストーリーがついている。

パスタ・メーカーのバリラ社が運営する食のラボラトリーAcademia Barillaによると、このパスタ料理はラツィオ州のものとしながら、発祥には二つのカンパーニア説があるという。一つは、20世紀初頭、ナポリの娼館で精力を使い果たした客や娼婦に食べさせたとする説(wikipediaでは、娼婦の商売下着が赤、黒、緑などの派手な色使いで、それがプッタネスカの材料に似た色合いだという説も紹介されている)。もう一つは、イスキア島に住む建築家サンドロ・ペッティが、オーナーであるレストランRancio Felloneで自ら作り出したとインタビューに答えているというものだ。

この建築家によれば、ある晩遅く、腹をすかせた数人の友人が自分の店にやってきて何か食べさせろと訴え、しかしすでに料理人は帰り、材料もほとんど何も残っていなかったので、イタリア人なら店でも家庭でも必ず常備している材料を使って簡単に作ってやったのだという。そのとき、友人たちが「なんでもいいからプッタナータな(シンプルでうまい)ものを」と言ったことから、スパゲッティ・アッラ・プッタネスカと名づけ、以来、店のメニューに載せたと説明している。

さて、プッタネスカの材料だが、Academia Barillaのレシピでは、トマト、アンチョビ、にんにく、黒オリーブ、ケイパー、イタリアンパセリ、油脂としてバターとEVオリーブオイルを使用している。ここに好みで唐辛子や黒胡椒を加えたり、あるいはアンチョビ、あるいはケイパー、あるいはイタリアンパセリをはずしても良いとしている。また、ナポリではアンチョビを使わず、ローマでは必ず使うという人もいある。参考までに、Anna Gosetti della Salda編著の『Le Ricette Regionali Italiane』での作り方を。同書ではカンパーニア州イスキア島の名物として紹介している。

まず、スパゲッティをゆで始める。湯に加える塩は少なめに(ソースに使う素材に塩漬けのものが多いため)。テラコッタの鍋にオリーブオイル、にんにく、ちぎった唐辛子を入れて火にかけ、にんにくが色づいたら、洗って骨を除いた塩漬けアンチョビを加えて溶かす。皮をむいて刻んだトマト(煮込み用)、ガエタ産の黒オリーブ(種抜き)、洗った塩漬けケイパー、トマトペーストを加えて煮込む。ゆで上がったスパゲッティを混ぜ合わせて完成。

トマトの水煮を使えば、それこそパスタをゆでている間に出来上がるこのソース、せっかちのローマ人にはぴったりの料理で、それでラツィオ発祥と言われるようになったのかもしれない。