2016年も続く、ストリートフードブーム
イタリアで“流行”と呼べるものなんて少し前まではほとんど存在しなかったと思う。しかし、ここ数年、明らかにブームと言える現象が続いている。パニーノやフリットに代表されるストリートフードの店やイベントが増殖しているのだ。
かつてはトラットリアやリストランテなど、テーブルについて食事をするほかはバールでブリオッシュやパニーノを齧るくらいしか“食事”の選択肢がなかった。しかし、そもそも、ストリートフード、いや、チーボ・ディ・ストラーダcibo di stradaは古代ローマ時代より庶民の味方であり、思いついた時に気楽に虫養いできる屋台が街の辻辻にあったのに、戦後の復興とともに、“貧しさの象徴”的な屋台はほとんどその姿を消してしまったのである。なかにはフィレンツェのトリッパイオのように例外的に生き残っている屋台もあるにはあった。だが、今は空前のストリートフードブームのおかげで、全国で伝統の“屋台もの”が復活しているのである。
2004年に設立されたストリートフード協会は、Streetfoodの名称を商標登録し、イタリア各地でストリートフード祭りを展開している。昨年は28カ所で催し、のべ入場者数はおよそ200万人。祭りでは、各種フリット、ピアディーナ、アランチーニ、パネッレ、パーネ・カ・メウサ(脾臓パニーノ)、ランプレドットなど伝統のチーボ・ディ・ストラーダのほか、キアーナ牛のハンバーガーのような今風のもの、さらにパエリアのように外国からの、もはやストリートフードではないのでは?と思われるものまで、多様な屋台が並ぶ。協会が定める“掟”では、伝統の食材、手作りを基本とし、作りたてを提供すれば、ストリートフードと呼べる。日本でいうところの、さしずめB級グルメであろう。
このほかにも、イタリア各地でサグラsagraと呼ばれる地元名産物祭りは常に人気があり、古いところでは何十年も続いている。また、イベントに限らず日常的にストリートフードを提供する店が増え、“ピッツァ&ストリートフード”といったように、そのままずばり店名に掲げているところもある。さらには、スペインの成功に影響されたのか、イタリア各地の市場がリニューアルするとともにストリートフード的に手軽に食べられるスタンドを投入する例が増えている。フィレンツェの中央市場2階のフードコートは大盛況だし、一階にも生パスタの店が立ち食いパスタのコーナーを新設したり、惣菜屋も手軽に食べられるバールを始めた。ミラノで先頃再開したサンタ・マリア・デル・スッフラージョ市場はイートインスペースが充実している。
しかし、数が増えれば質も玉石混淆となってくるのが世の習いで、量のわりに値段が高いとか、営業時間が昼と夜のみというレストラン並みの使い勝手の悪さだったりするところ、はたまた、味そのものに(これは美味しいのか?)疑問に思うようなこともある。そういった「ストリートフードでひと儲け」的な店は当然淘汰されるだろうが、我々も良し悪しを見抜く力を身につけなければならないのである。