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地理的表示(GI)は農水産物の救世主となるか

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ある特定の土地特産の農林水産物食品に、その土地名を冠し、さらに、よその土地で産した同類の食品にはその特定の土地名付きの名称を使用することを禁じる法律が、昨年末にようやく、日本でも本格的に始動した。地理的表示保護制度(GI)と呼ばれるこの法律は、EUではすでに1992年に原産地名称保護制度として機能している。しかし、それ以前から、フランスやイタリアなど各国では独自に法制化していた。世界にその名を知られたワインやチーズなど特産物が多く、それだけに詐称品も多く出回っていたからだ。

ただ、この法律の効果は限定的である。たとえば、EU内で原産地名称保護に認定されていても、アメリカではその保護の恩恵に与れない。パルミジャーノ・レッジャーノと“非常に似た”名前でアメリカではパルメザンチーズが製造販売されており、EUとしては、アメリカに“保護認定されている食品なので、尊重してほしい”とお願いするにとどまるのである。しかし、EPA(経済連携協定)を結んだ国同士では、互いの原産地名称保護制度に準じるのが原則となる。EUと日本とのEPA締結が決定すれば、日本でも“パルメザン”と名のつくチーズは、イタリアで作られるパルミジャーノ・レッジャーノの詐称となるため、販売することはできなくなる。その代わり、EU圏内で、GI認定の神戸ビーフと称して別の牛肉が販売される危険もぐんと減る。

このような、自国の特産物を保護する動きがヨーロッパに遅れること20余年にして初の一歩を踏み出したわけだが、日本の地理的表示保護制度には、ヨーロッパにはない微妙な違和感を覚える。農林水産省のホームページには、制度の大枠と効果について明記されており、そこで「産品の品質について国が『お墨付き』を与える」とある。昨年末に初めてのGI認定が7つの産品に付されたというニュースが報道された時、メディアはこの“お墨付き”を見出しに掲げた。お墨付きとはいうまでもなく、お上が与える保証である。つまり、国は上から目線、生産者側はそれを押し戴く立場であることを物語る表現だ。この言葉から、この国の農業漁業が受け身体質で歩んできたことが伺える。しかし、守ってもらおうという考えだけでは、この制度は機能しない。たとえば、国は違反者に対して取り締まることはできるが、違反者を積極的に探し出すことはしない。違反者を見つけ出すのは、生産者側なのである。現にイタリアでは、DOP(原産地呼称保護)やIGP(地理的表示保護)の産品の生産者は、おもに生産者組合を通して、国内外の違反行為に目を光らせている。生産者自身が自分たちの産物を守ろうという意識が強いのだ。

地続きで外国と接しているからこそ、自己防衛本能も強いヨーロッパ人だが、隣国の脅威にさらされている日本も呑気にガラパゴス体質を満喫している時代ではないことに異論はないだろう。2015年12月の時点で278の農水産物(ワインを除く)がDOP、IGP及びSTG(伝統的特産品保証)の認定を受けているイタリアに対し、日本はわずか7つのGI産品しか持たないが、日本にとってこの法律は国内はもちろん、外国に対しても特産物を保護し品質を維持するための重要な足がかりとなる。国のお墨付きをもらって満足しているだけではだめで、これをバネにさらなる飛躍を目論むべきなのである。優れた産品をほかの国にも送り出すことで、ひいては日本の農水産業の未来を切り開くことにつながるはずだ。

About Manami Ikeda (313 Articles)
大学卒業後、出版社に就職。女性誌編集に携わった後、98年に渡伊。以来ずっとフィレンツェ在住。取材とあらばどこにでも行きますが、できれば食と職人仕事に絞りたいというのが本音。趣味は猫と工場見学。
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