イタリアからの朗報 3つ星シェフ、ニコ・ロミート復活

ロックダウンが続くイタリアではプロアマ問わず多くの人々が自宅での料理風景をYoutubeやInstagramなどに動画でアップ。自宅待機を余儀なくされる間、そうした料理動画を鑑賞するのが大きな楽しみとなっている。中にはマッシモ・ボットゥーラのように自宅での料理動画を#kitchenquarantineと題して連日世界に公開、そこから得た寄付金とアフィリエイト合計900万円を使ってモデナ市に救急車を寄付したというケースもあった。

しかしファイン・ダイニングの世界ではロックダウンが開けたとしても、今後相当の苦戦が予想される中、トップシェフたちの言動は今後のイタリアにおけるレストランのあり方を示す一つの指針でもあり、多くの人々がネットを通じてこうしたシェフたちの動向を注目しているのだ。そうした流れがあるにも関わらず、ロックダウンが始まってというもの動画発信はせず沈黙を守り続けていたのがアブルッツォの3つ星シェフ、ニコ・ロミート Niko Romitoだ。

ニコ・ロミートはその代わりに段ボールに書いた手書きのメッセージともに近況写真をアップ。動画で訴えるよりもある意味さらに強い思いが込められたメッセージは、胸中を思んばかる人々の胸を打った。例えば「Non so cucinare a casa=家では料理の仕方がわからない」つまりレストランの厨房に早く戻って、自分が本当にしたい料理を作りたい、というメッセージは嘆きにも似た叫びだったと思う。そのニコ・ロミートが最新の画像をアップしたが、それはシェフジャケット姿で「Torno in cucina=厨房に戻ります」と書かれた段ボールを手にしたものだった。

自らを「寡黙でおとなしい」と評するニコ・ロミートは、自宅で料理をしない(あるいは、とても料理する気になれなかった?)自分の代わりに日々一生懸命料理を作る家族の姿を見て、あらためて料理の本質に気づかされたという。愛する人々のために努力し、時間をかけ、料理を作ってもてなす。おそらくは自分と向き合う時間を必要としたのだろう。ニコ・ロミートは数週間ぶりにシェフジャケットを身にまとい、少しづつではあるが復活を宣言したのだ。

まず4月16日から始めたのはローマの「スパツィオ」でのデリバリーだが、これはDeliverooのサポートをうけている。自宅待機が続くイタリアではUber Eats、Deliverooといったフードデリバリーが大人気で人手が足りず、届くまで数時間待ちということもある。またコミッションが高いことからデリバリーには手を出せないレストランも多い。Deliverooも本来は料理代金の25%がコミッションなのだが、現状を鑑み今後3ケ月間は迅速な支払いで数千件のパートナー・レストランのキャッシュフローの改善に協力すると発表した。

今回ニコ・ロミートが考案したデリバリー・メニューの一例をあげるとこんな感じだ。例えば1人25ユーロ(注文は2人分=50ユーロから)アンチョビのオイル漬け、パガニコのクラテッロ、ズッキーニのスカペーチェ、自家製マグロのオイル漬け、バッカラ・マンテカートとペペローニ、ボッリートのポルペッテ、水牛のモッツァレッラ、ローマ風カルチョーフィ、そしてパン。あるいは前菜からドルチェまでのトラディショナル・メニュー1人38ユーロ、ヴェジタリアン35ユーロもある。またアブルッツォのストリートフードでミラノの「ボンバ Bomba」で有名になったボンバや、鶏の丸揚げポッロ・フリットといったニコ・ロミートの代表的なシグネチャー・ストリートフードも各種デリバリーに対応している。

「スパツィオ」のサイトをのぞいてみるとオンラインでのデリバリー対応と専用メニューがすでに用意されていた。ここまで完璧なデリバリー=テイクアウト用メニューを用意しているということは、ある意味イタリアにおけるデリバリー需要の深刻さと、ロックダウン長期化、ファインダイニング復活の困難度を考えた上での全面的方向転換の象徴ともいえるのかもしれない。ちなみにUber Eatsで東京某所のデリバリーを検索して見たところ、配達可能だったのは「すき家」「松屋」「やよい軒」「ほっともっと」「バーミヤン」「マクドナルド」「バーガーキング」「Coco壱番屋」でイタリア料理はピザ1軒のみだった。