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サルデーニャの食を訪ねて〜Forum Agroalimentare03 パーネ・カラサウ@Panificio Bulloni

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ディープ・サルデーニャ最奥部、ユネスコの無形文化遺産にも指定されている「テノーレス」の町ビッティ。これは羊飼い同士のコミュニケーションを兼ねた独 特の歌唱法で、民族衣装に身を包んだサルデーニャの男たちによるアカペラ風の音楽。テレビはじめ見たことがある人も多いかと思い。イタリアで「ビッティ」 ときくとまず思い浮かぶのがこのテノーレスなのだが、今回サルデーニャの食を訪ねる旅では、同じくサルデーニャの羊飼い文化の象徴である薄焼きのパン 「パーネ・カラサウ」の工房を訪ねた。

ビッティにある「Panificio Bulloni パニフィーチョ・ブッローニ」は1970年創業、パーネ・カラサウのみを作る工房である。パーネ・カラサウは別名「カルダ・ダ・ムージカ=楽譜」とも呼ばれる、直径30cmほどのセモリナ粉を使った薄焼きパン。その名は薄くてカリカリに焼いてあるので食べる時に音がすることに由来する。起源は非常に古く、元来は羊飼いが放牧に携行する保存食であったため、二度焼きして水分を完全に飛ばしてあるので軽く、また日持ちするいわば乾パンのような存在。カラサウとはサルデーニャ語のcarasare=あぶる、に由来する。そのまま食べてもよいが、あぶってからオリーヴオイルをたらして食べる「パーネ・グッティアウ」や、トマトソースとペコリーノをかけ、あるいはラザニア状にオーブン焼きして柔らかくして食べる「パーネ・フラッタウ」などの食べ方がある。特に「パーネ・グッティアウ」はサルデーニャではスナック菓子として売られているほど非常にポピュラーだ。

「パニフィーチョ・ブッローニ」は生産現場の9割が女性従業員だ。原料は水とセモリナ粉のみ。まずはS’inthurtaと呼ばれる作業で夜明け前に酵母 をぬるま湯で溶き、セモリカ粉とまぜてテラコッタの鉢で捏ねる。次にこの生地をテーブル上で練る作業cariareに移るが家庭では拳や膝を使っていたという。非常に力のいる作業だが、パーネ・カラサウはじめ硬質小麦を使ったパンはこの強く練る作業が最も大事で味を左右すると言われる。こうしてできた生地をテラコッタ、あるいはこの地方の特産であるコルク鉢の中で、布巾をかけて休ませる(pesare)。

発酵が終わったら小さくまとめて円盤状に薄く伸ばす作業(illadare)だが、伸ばした生地を長さ10mほどの独特の布巾(pannos)で包んでは折り重ねてゆく。これももともとは羊飼いが携行しやすいように考えられた方法だといわれ、一度に20枚の生地を運ぶことが出来る。

kokere、焼成。この生地をピッツァと同じように木のへらを使い、450〜500度の窯で焼くと焼成によるガスが内部に発生し急激に膨れて球状になるが、焼き上がったこの球状のパンをナイフで素早く切り(carpire)2枚の生地に分ける。パーネ・カラサウは1枚ごとに平らな面とざらつく面、つまり裏と表があるのはこのためだ。最後に二度目の焼成(carasare)で水分を完全に飛ばし、乾燥させるという非常に手間のかかるパンなのである。

「パニフィーチョ・ブッローニ」での生産現場は一部オートメーション化しているもののそのプロセスは家庭が作るのと代わらない。また、全ての行程に人の手(この場合は女性の手)が入ることで、完全機械化の工業製品とは違い、伝統的製法と味を遵守している。そうして焼き上がったパーネ・カラサウはスーパーで売っている工業製品とは違い、美しいきつね色で香りも豊か。また、女性たちが一枚一枚一見無造作に、しかし着実に重ねてゆく作業はまさに熟練の技。サルデーニャならではの超絶技巧は下の動画からどうぞ。

www.panificiogiuliobulloni.it

 

匡克 池田
About 匡克 池田 (1165 Articles)
1967年東京生まれ。イタリア国立ジャーナリスト協会会員、フォトジャーナリスト。日本で出版社勤務後独立、1998年よりフィレンツェ在住。「シチリア美食の王国へ」「イタリアの老舗料理店」「フィレンツェ美食散歩」「伝説のトラットリア、ガルガのクチーナ・エスプレッサ」など著書多数。2011年に池田愛美と株式会社オフィス・ロトンダ設立。国際料理コンテスト「Girotonno2014」「Cous Cous Fest2014」で日本人初の審査員となる。 http://www.office-rotonda.jp https://www.facebook.com/ikedamasa
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