現在進行形WASHOKU、SUSHI-B@MILANO

昨年11月にミラノで行われたサン・ペレグリーノ・ヤング・シェフ・コンテストを取材した時のことである。大会に出場した世界各国のヤングシェフたちの口から「UMAMI(旨味)、DASHI(出汁)、SHIZO(紫蘇)、SANSHO(山椒)、YUZU(柚子)」といった単語がすらすらと飛び出し、TV番組「マスターシェフ」等で知られるイタリア一有名な料理人カルロ・クラッコや、World 50 Bestのアジア最優秀シェフであるアルナルド・ガガンらで構成された審査員もごくごく当たり前のようにそうした日本語を聞いているのに驚かされた。

アルナルド・ガガンは、ヤングシェフに対して「出汁は何度でどのように取ってますか?」と質問し、カルロ・クラッコは「日本の〆鯖の手法を説明して下さい」とたずねるなど、WASHOKUの手法においても実に細かい質問を繰り返していた。ガストロノミーの世界ではイタリア料理、スパイン料理等ジャンルを問わず、WASHOKUの影響ははつねに増大し続けているのだ。

それに関してイタリア代表コーチして登場した1つ星シェフであり、リゾットの第一人者ダヴィデ・オルダーニはこんな話をしてくれた。「いまや食材の情報はあらゆる国境を越え、クチーナ・レジョナーレ(郷土料理)はもはや存在しない。存在するのはノン・クチーナ・レジョナーレ(非郷土料理)つまり食材ありきの料理だ」そしてWASHOKUがイタリアの非郷土料理に与える影響は非常に大きい。

2017年度版のエスプレッソ誌ではミラノの「IYO」が最優秀エスニック・レストランに選ばれ、シェフ市川晴夫さんはミシュラン1つ星に続きまたひとつ勲章を増やした。同じくミラノの「Wicky’s」は日本で学んだ寿司職人ウィッキー・プリアンが作る寿司の世界が高い評価を得ているが彼もまた越境型料理人の1人だ。そしてミラノにまたしてもWASHOKUの新たなムーブメントが誕生した。
「SUSHI-B」は前述2件に続く和食レストランだが、シェフの新森伸哉さんは寿司職人ではなくイタリア料理界の王道を歩いて来たキャリアの持ち主。やはりイタリア風寿司「SUSHI – SUSCI」で知られたマルケ州の2つ星「マドンニーナ・デル・ペスカトーレ」のシェフ、モレーノ・チェドローニの右腕として働いた後ミラノに移り「ドン・カルロス」「アルマーニ・ノブ」のシェフとして活躍した。新森さんの料理は、これまでのイタリアにおけるWASHOKUの世界には存在しなかったほど美しい。「帆立と赤海老のカルパッチョ、からすみと柚子醤油のヴィネグレット」は北海道から空輸しているという上質な帆立を非常にデリケートな味付けで食べさせてくれる。

新森さんのシグニチャー・ディシュとなりうるのが「シガロ」。これは海老と大葉、松の実をパートフィローで包んで揚げたものだが、ドライトマトパウダーを葉巻の火に見立てた、遊び心あるユニークな料理。ドライトマトパウダーの酸味が揚げ物と実によくあい、気分的にはワインよりもブランデーが欲しくなる。

いま新森シェフが力を入れていると言うカレーは12種類のスパイスで作ったベースに出汁と醤油を加えて完成させる上質な和風カレー。現在ランチで人気だというので「ザザ・ラーメン」「カーサ・ラーメン」に始まったラーメンブームの次は「SUSHI-B」からミラノ・カレーブームが登場するかもしれない

Masakatsu IKEDA
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池田匡克 Masakatsu IKEDA ジャーナリスト 1967 年東京生まれ。出版社勤務後1998 年イタリアに渡り独立。旅と料理のビジュアル・ノンフィクションを得意とし、イタリア語を駆使したインタビュー、取材、撮影、執筆、講演活動を日本、イタリア両国で行う。主な著書に「シチリア美食の王国へ」「イタリアの老舗料理店」「サルデーニャ!」「フィレンツェ美食散歩」「アマルフィとカプリ島」「Dolce!イタリアの郷土菓子」「世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ」など多数。 2003年度「シチリア美食の王国へ」がイタリア文化向上に貢献した出版物に送られるマルコ・ポーロ賞(イタリア文化会館主宰) 最終候補作品にノミネート 2005年よりイタリア国立ジャーナリスト協会所属 2011年株式会社オフィス・ロトンダ設立。現在代表取締役 2014年日本初のイタリアの旅と料理をテーマにしたWEBマガジンSAPORITA設立。国際料理大会Girotonno、Cous Cous Festに日本人として初の審査員に選ばれる

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