San Pellegrino Young Chef Contest 2016その3〜マッシモ・ボットゥーラのガラ・ディナー 

大会最終日の10月15日、選手、メンター、審査員、ジャーナリスト、関係者、全員揃っての華やかなガラ・ディナーが行われたその主役はミシュラン3つ星、World 50 Best世界1位など、ありとあらゆるタイトルを独占しているイタリア最高の料理人、マッシモ・ボットゥーラだ。会場にあらわれたボットゥーラは厨房に入る前、いつものようにエネルギッシュにこう話してくれた。「若い料理人に必要なのはとにかくいろんな経験をして徹底的に仕事に打ち込むこと。伝統を知らなければ新しいことの表現はできない。」

用意されたオープンキッチンはボットゥーラのステージと化した。まず最初に登場したのは「Lenticchie, quasi meglio di Caviale キャビアより素晴らしいレンズ豆」これはキャビア缶の中にキャビアに見立てたレンズ豆をしのばせた見立て料理。下にはビーツ、アンチョビなどが隠れている。これはとにかく目をとじ、五感を集中してボットゥーラの世界に没頭するための下準備的料理である。オシェトラをしのぐ味が口中で想像できればボットゥーラの世界へ飛び込む準備は完了したといってもいい。

「Crunchy Lasagna クランチー・ラザーニャ」これはラザーニャを食べるとき、誰もが一番美味しいと感じるカリカリに焼けた生地を凝縮させた料理。中華料理の龍蝦片を思わせる軽く香ばしい食感だが、味は確かにラザーニャなのだ。

そして世界一美味しい「Tortellini in Parimigiano パルミジャーノのトルテッリーニ」、これはボットゥーラのパスタの師匠、リディア直伝のトラディショナルなトルテッリーニをアックア・ディ・パルミジャーノの中で直接加熱し、パルミジャーノのエキスを凝縮したもの。ボットゥーラしかできない調理法のパスタは、お湯やブロードで茹でるという発想をひっくり返したエポクメイキングな料理だ。とにかくこれは一度食べたら普通のトルテッリーニは食べられなくなる禁断のパスタである。

そして最近のボットゥーラの代表作である「Beautiful, psychedelic, spin painted veal, not flame grilled サイケデリック・ステーキ」はRolling Stonesでいうなら「Start me up」にあたる。ヒヨコ豆、フランボワーズ、サルサ・ヴェルデなど6色のソースをボットゥーラ自らがエネルギーを放出しつつ皿に描くその姿は鬼気迫るものがあり、唯一近づけるのは飛び入り参加した成澤シェフのみ。ジャクソン・ポロックのアクション・ペインティングもかくやとおもわせるボットゥーラのライブ・キッチンはこの時点で最高潮に達した。

そして「Oops, mi e’ caduta lemon tart ウップス!落ちたレモントルタ」は現在のボットゥーラの代表的なドルチェ。スーシェフの紺藤さんがトルタを落としてしまった際に考案したというその大胆なプレゼンテーションはいまや多くのレストランが模倣するニュースタンダードとなりつつある。

グアルティエロ・マルケージ、ダヴィデ・オルダーニ、アンドレア・ベルトンらイタリアを代表するトップシェフに加え、成澤由浩、ガガン・アナンド、エレナ・アルサックら世界中から集まった国を代表するシェフたちがともにテーブルを囲んだガラ・ディナーは熱く激しく、ボットゥーラが放つエネルギーとともにミラノの夜へと昇華していつまでも終わらなかったのである。