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再録、2015年6月マッシモ・ボットゥーラ・インタビュー

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モデナにあるオステリア・フランチェスカーナのシェフ、マッシモ・ボットゥーラは現在のイタリアにおける最高の料理人である。ミシュラン3つ星はじめそのタイトルは数多く、2016年版のエスプレッソ誌では史上初の20点満点に輝き、残されたタイトルは現在世界2位であるWorld’s Best 50 Restaurantの世界一というタイトルだけとも言われている。(注・2016年に世界一に輝く)

そのイタリア料理界の巨人は現在何を考えているのか?2015年はイタリア料理界にとっては史上最大のイベントとも言える万博がミラノで開催された。半年間に渡って繰り広げられた万博のテーマは「地球に食料を、生命にエネルギーを」。単に美食を追求するのではなく、食の安全と地球環境について考えるためイタリアを代表するトップ・シェフたちが万博に集い、さまざまなメッセージを世界に投げかけて来たがその中心はやはりボットゥーラだった。

Qそのミラノ万博ですが、あなたはイタリア料理界を牽引する料理人として、どう捉えましたか。

「万博は広く世界の人々に、食とはなんであるのかを問いかけたわけですが、そのサポート役として重要な働きをしたのが料理人です。なぜなら、料理人は食の現場で行動しているので、その経験と知識を多くの人とシェアする使命を負っているのです」。

Q料理人である、あなたが料理を考える時、一番大切なこととは何ですか?

「料理人にとって最も重要な“素材”とは、文化、知識、意識、責任感です。文化とは人間が連綿と築き上げてきた知識と意識と責任感の集積。つまり、文化がなければ、知識も意識も責任感も生まれない。料理人は文化から学ぶことで、成長し、発展を続けることができるのです。料理人の未来は文化を土台にしているのです。そのことを常に頭に置いておかねばなりません」。

クチーナ・テリトリアーレとミニマリズムにおける考察

Qエミリア地方、パルミジャーノ・レッジャーノやバルサミコ酢、そしてプロシュートやサラミの名産地域のただ中に位置するモデナ。あなたはこの町を本拠に伝統的な食材と調理法を学び、そこを原点として縦横無尽なアプローチで世界に料理を発信し続けてきましたが、あなたにとってイタリア料理とはなんですか?

「イタリア料理の根幹は、“回復、あるいは復活”にあります。言い換えれば、クチーナ・ファミリアーレ(家庭料理)であり、クチーナ・テリトリアーレ(郷土料理)です。これらは、素材ありき、素材を通して表現するしかありません。この点において、我々は日本と深く結びついていると感じています。イタリア料理も日本料理も素材から逃れられない。素材につきまとわれているのです。もう一点、共通する部分がありますね。ミニマリズムです。特に北イタリアに、その傾向が顕著に見られます。たとえば、ごくシンプルなリゾット・マンテカート。究極的にミニマルな料理です。しかし、一口食べれば、それは饒舌にその土地の人々について語りだすのです。料理人は、農家や食材を手がける職人と密接なつながりを築き、また、ほかの土地を拠点とする料理人たちとも連携して、その土地の素材の持つ実力を最大限に発揮させるよう努力する必要があるのです」。

将来、イデアとなる料理におけるアヴァンギャルドとは?

Qこれからを担う、若い料理人に向けて、なにかメッセージはありますか?

「将来、料理は素材の質だけに頼らず、イデア(理念)の質の問題になってきます。私は幾つかの日本の料理学校と協定を結んでおり、生徒が卒業する前にオステリア・フランチェスカーナに食べにくるプログラムがあるのですが、そこで私の考える料理とその未来について話すようにしています。アヴァンギャルドかつ革新的であるためにはどうすればいいのか。それには、すべてを知る必要があり、またすべてを忘れる必要がある、と答えています。旅をし、学び、あらゆることを知る。本当にすべてを知ることなどできませんが、できる限りの努力を惜しんではいけません。しかし、全てを知っても日々を漫然と生きていたら、そこから先へは行けません。退屈に思える日常を自分の問題として乗りこなさなければならない。全てを知った上でやるべきこととは、それをゼロにする努力を重ねることです。それがすなわちクリエイティビティのスタートです。」

Q一流の料理人であるためには日々全てを知る努力を重ねた上でさらにクリエイティヴィティを磨かねばいけないということでしょうか

クリエイティビティに時間は存在しません。どのくらい時間をかけるか、という問題ではないし、持っている持っていないということでもない。すべて、ヴィジョン(見方)の問題なのです。レシピを創造することは、きわめて知的な行為だと自覚する必要があります。食べる人のことを思い、創造することの大切さを忘れないでほしい。オステリア・フランチェスカーナでは、人々が噛み締めるひとくちひとくちに記憶、芸術、音楽、つまり全ての“日常”を凝縮させようと努めています。これが我々の情熱であり、信じる道なのです」。

Q再び、万博に話を戻しますが、あなたは万博会場外での活動として、レフェットリオ(修道院の食堂、の意)を運営しました。劇場跡を食堂に改修し、イタリア内外で活躍する著名なシェフの協力も得、スーパーなどで賞味期限を過ぎて廃棄処分扱いとなった食材を利用して、恵まれない人々に無償で食事を提供しましたがその意義とはなんですか?

「これは単なる慈善行為ではなく文化的行為だと考えています。私はレフェットリオにすべてのスタッフを連れて行っています。アラン・デュカスやフェラン・アドリアら世界中の偉大な料理人が模範を示し、若い料理人がその指揮下に入る。彼らはそこで責任感とはなんであるかを学び、食料の無駄な廃棄を減らすことの大切さを理解するでしょう。こうした精神性を自分のものとして自然に身につけ、それをけして忘れることはないはずです。これが、私の考える、世界が変わるために料理人ができることの一つの方法です。レフェットリオ活動はイタリアだけでなく、今後、NY、東京、リマでも着手するつもりです」。

Q常に新しいことに挑戦し続けるのが料理人、マッシモ・ボットゥーラですが、レフェットリオの次に、世界が変わるためのプロジェクトとして何をしようとしているのですか?

「今、考えているのは農業大学の実現です。モデナの郊外にある素晴らしいヴィッラを利用して、将来、農業に就こうという者、チーズを作ろうと思う者、料理人になろうと思う者が学ぶ農業大学を設立したい。若者はそこでまず学び、そして、実地に赴く。つまり、マスターの称号を持つものがじゃがいもを栽培したり、多くの文化を背負ったパルミジャーノを作ったり、その先に料理人になることもあるでしょう。先に私は、イタリア料理とは、回復、あるいは復活の料理であると言いました。別の言い方をすれば、土地を噛み締めることだと考えています。土地を噛み締めることとは何か。その土地を心底理解することです。農業大学ではその基礎を学ぶのです」。

いまやマッシモ・ボットゥーラとは世界中の美食家たちが一度はその味を試したいと夢見る、イタリア料理界のカリスマである。ボットゥーラが料理哲学について情熱的に語るとき、周囲の若い料理人は直立不動で一言も聞き漏らすまいと真剣に耳を傾ける。彼らにとってボットゥーラの言葉とは神の啓示なのであり、レフェットリオのような活動からひとり、またひとりと次世代のイタリア料理界をリードする料理人たちが生まれて来る。それこそがイタリア料理の将来像について誰よりも進んだヴィジョンを持つマッシモ・ボットゥーラが、現代イタリア料理界に与えている最大の功績なのかもしれない。

インタビュー・池田匡克 2015年6月オステリア・フランチェスカーナにて
初出「料理王国」2015年9月号

Massimo Bottura

1962年モデナ生まれ。大学で法律を学ぶも24才で料理人の道を志し地元のトラットリアで料理人として働き始める。アラン・デュカスやフェラン・アドリアの元で働いた後1995年オステリア・フランチェスカーナを引き継ぐ。2002年にミシュラン1つ星、2011年には3つ星を獲得。

 

匡克 池田
About 匡克 池田 (1161 Articles)
1967年東京生まれ。イタリア国立ジャーナリスト協会会員、フォトジャーナリスト。日本で出版社勤務後独立、1998年よりフィレンツェ在住。「シチリア美食の王国へ」「イタリアの老舗料理店」「フィレンツェ美食散歩」「伝説のトラットリア、ガルガのクチーナ・エスプレッサ」など著書多数。2011年に池田愛美と株式会社オフィス・ロトンダ設立。国際料理コンテスト「Girotonno2014」「Cous Cous Fest2014」で日本人初の審査員となる。 http://www.office-rotonda.jp https://www.facebook.com/ikedamasa
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