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ハインツ・ベック@大手町の実力

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イタリア料理のストックフォト10,000点超

ローマのHotel Cavalieri (旧Cavalieri Hilton)内にあるレストランLa Pergolaのシェフ、ハインツ・ベック Heinz beckは史上初めてローマにミシュラン3つ星をもたらした、これまた史上初めての男性外国人(非イタリア人)シェフである。現在はローマの他ドバイやポルトガルなどでもレストランを展開しているが、史上初めて「ハインツ・ベック」の名前を冠して2年前に大手町にオープンしたのが「ハインツ・ベック」そしてセカンドラインの「センシ」である。

現在のシェフ、ジュゼッペ・モラーロ Giuseppe Molaroと初めて会ったのは昨年11月16日に行われたVinexpoでのGambero Rossoの新ガイドブック「Top Restaurant in the World」の表彰式。ジュゼッペは並みいる先輩イタリア人、あるいは日本人シェフをおしのけて、Il Ristorante Bvlgari / Luca Fantinのルカ・ファンティンとならび、東京のリストランテで2人だけミシュランでいうなら3つ星に相当し、Gambero Rosso本誌で100点満点中90点以上獲得した場合にのみ与えられる3本フォーク「トレ・フォルケッテ」を受賞したのである。「Ristoranti Italiani in the World」編集長Lorenzo Ruggeriとローマで話した際「ハインツ・ベック」が3本フォークを受賞する話はすでに聞いていたが、海外で活躍するイタリア人も評価するところにガンベロ・ロッソのすごさがある。

そのジュゼッペの料理を味わう機会が訪れたのが3月のある日。この日の料理は計13品のデグスタツィオーネ「プレステージコース」で、このような構成だった。

シェフからのお楽しみ  Amuse Bouche

オイスターリーフとレモン、アンチョビのグラニータ、一口サイズのアミューズだが口に含むとしっかりとオイスターの味になり、植物性だけれどややスモーキーな魚介の旨味をともなう変化球。もう一品は温かいアミューズで白いんげん豆のクレマと脂をほとんど感じないカリカリのパンチェッタ。

白身魚のカルパッチョ 雲丹とキャビア ほうれん草のソース
Carpaccio di pesce con ricci di mare, caviale e salsa spinaci

真円に抜いたマコガレイに雲丹とキャビア、そして別添えでほうれん草のソース。可憐、端麗、淡白、凝縮、塩分はほぼキャビアのみという文字通り素材の持ち味を計算した組み合わせ。キャビアの粒まで数えているのではないか?

赤座海老 薫製したジャガイモのピューレ ピンクグレープフルーツ
Scampo su purea di patate affumicate e pompelmo rosa

スカンピ、これも薫製で火を通す間接加熱で旨味は凝縮。

烏賊 キノコのリピエーノ
Calamaro ripieno di funghi

モリーユとプポルチーニなどからとったブロード、というよりもインフュージョン、出汁。植物性のブロードと動物性タンパク質の組み合わせで旨味を倍増させるのは和食の手法によく似ている。イカも非常にやわらかな火入れ。

鴨のスープ 冬の根菜
Infuso di anatra con radici invernali

ハインツ・ベックの神髄はあらゆる食材の旨味、あるいはエッセンスだけを抽出し、軽く仕上げるか、にあると思う。味は口に残るが素材は胃に残らない、つまりは十数品飽きずに食べ続けることが出来る。これは鴨ごぼう。しかし野菜だけでよくこれだけ飽きさせず、一皿ごとに違う味を構築できるものだとすでに驚愕。

かぼちゃのタリオリーニ 芽キャベツとアマレット
Tagliorini con zucca, cavoletti di Bruxelles e amaretti

ひとくちサイズのタリオリーニ。ファインダイニングの世界ではイタリア料理の存在意義を問われることが多いが、パスタに関してはトラディショナルなスタイルを変えない、というのがそれに対するハインツ・ベックの答えである。滑らかでマントヴァの春を思い出させる。

雄鶏のトルテッリーニ ニンジンのソース 黒トリュフ
Tortellini ripieni di cappone su salsa carote e tartufo nero pregiato

皿上に描かれた6つのトルテッリーニ。マッシモ・ボットゥーラは「Tortellini che camminano sul bordo」という料理でトルテッリーニ・イン・ブロードのブロードを液体から固体に変え、トルテッリーニを水面下から地上へと昇華させたがこの料理もそうした歩くトルテッリーニを思わせる。非常にトラディショナル、しかし軽い。

ファゴッテッリ・ハインツ・ベック
Fagottelli Heinz Beck

本来メニュー外だったハインツ・ベックのシグニチャーディッシュ「ファゴッテッリ」を追加したため、期せずしてパスタ3連発となったコースのハイライト。薄くて繊細なパスタを口に含むと中から溢れ出て来るのはペコリーノを使ったカルボナーラ・ソース。中と外を入れ替えて表現した一口サイズのカルボナーラは軽やか、可憐。時に重くなりがちなローマの伝統料理に対し、ローマ史上初めてのミシュラン3つ星を獲得したドイツ陣シェフが出した一発回答。

カンノーロ ブロッコリー、セロリ、りんご、ローストした玉ねぎのフォン
Cannolo croccante con broccoli, sedano e mela su fondo di cipolla arrostita

極薄のカンノーロと野菜に玉ねぎからとった軽いフォンを注いで食べるこれまた油分を全く感じさせない軽快なオニオンスープ。

本日の鮮魚 オレンジとミントの香り 香ばしいパンとアーティチョーク
Pesce del giorno su profumi di arancia e menta con croccante di pane e carciofi

魚はむつだったか。極薄のパンをカリっとあぶり、同じく極薄のアーティチョークもカリカリに。食感のコントラスト楽しむ料理。

鳩胸肉のマスタード風味 レンズ豆 ゴボウのチップス
Piccione con senape, lenticchie e chips di scorzanera

見た目はほぼレア、しかしおそらく低温調理の鳩の胸肉にマスタードをあわせた軽く、これまた脂質を全く感じさせない料理。しかしここまでで一体何種類の野菜を味わったのか?

牛の頬肉 ラディッキオとコールラビのソース
Guancia di manzo su radicchio brasato con salsa di cavolo rapa

まるでいくらでも食べられそうなこれまでの流れに終止符を打つかのように、トラディショナルで濃厚かつ重いソースに脂分の多い頬肉。

柑橘 Agrumi

ぽんかんなどを生、ソース、ジェラート、ビスコッティ、チャルダ、クランブルなど様々なテクスチャーに変えた技巧的なデザート。これまた驚愕。

果実の冷静スフェラ ジャスミンティーのクリーム 結晶化したラズベリー
Sfera ghiacciata ai frutti rossi cremoso al te jasmine e lamponi cristallizzati

サービスの三浦氏によれば、つなぎ目を入れず完全な球体(スフェラ)にするハインツ・ベックの代表的なデザート。「ベルトン」のアンドレア・ベルトンや「VUN」のアンドレア・アプレーダら、球形のドルチェを出すシェフもいるがこれは完璧な球体。しかも冷たい。再び驚愕。ハインツ・ベックの料理はあくまでも軽く、オイルや脂質を感じさせない野菜だけなのに味わい深く、飽きさせないという構成にまず驚愕。パスタ3連発に再び驚愕。そしてドルチェでさらに驚愕。13品の料理の個性がそれぞれ際立ち、最初から最後まで明確なメッセージが伝わって来る。ちなみにこの「ハインツ・ベック」ガンベロ・ロッソではすでに高く評価されているにも関わらず、まだミシュラン東京では1つ星も獲得していない。そしてこの価格。東京で味わえる最高レベルのハイエンド・イタリア料理。

www.heinzbeck.jp
13皿のプレステージコース ¥19,000 ワインペアリング ¥6,000〜

 

匡克 池田
About 匡克 池田 (1145 Articles)
1967年東京生まれ。イタリア国立ジャーナリスト協会会員、フォトジャーナリスト。日本で出版社勤務後独立、1998年よりフィレンツェ在住。「シチリア美食の王国へ」「イタリアの老舗料理店」「フィレンツェ美食散歩」「伝説のトラットリア、ガルガのクチーナ・エスプレッサ」など著書多数。2011年に池田愛美と株式会社オフィス・ロトンダ設立。国際料理コンテスト「Girotonno2014」「Cous Cous Fest2014」で日本人初の審査員となる。 http://www.office-rotonda.jp https://www.facebook.com/ikedamasa
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