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合言葉はトラスパレンテ「リストランテAqua Crua」

Aqua Crua, cucina naturale, essenziale e di trasparenza

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客席と厨房には仕切りがない。

レストランには、境界がある。あるミラノのフォトグラファーが「境界」と題し、レストランの厨房と客席の部屋の間の仕切りを写していた。その仕切りには扉がなかったから、厨房と客席は相互が中を覗ける関係だったのに、その「境界」ははっきりと感じられた。

リストランテ「アクア・クルア」にはその「境界」がない。フロアの手前2/3が客席、残りの1/3が厨房で、どの席からも厨房ははっきりと見える。段差もないので、劇場的ではない。この空間のベースとなっているのは、シェフ、ジュリオ・バルデッサーリが家族と過ごした家だ。父親は食卓について四方山話をしている。母親はそれを聞きながら料理をする。ジュリオの幼い頃の記憶が、アクア・クルアの原点だ。お客は、厨房で料理をするジュリオたちを眺めながら、おしゃべりに興じながら、料理がテーブルに運ばれるのを待つ。取り澄ました恭しさを排除した、フラットで親密な関係がここにはある。

ジュリオ・バルデッサーリは、トレンティーノ・アルトアディジェ州トレント郊外の温泉地に生まれた。料理上手な母親、ホテルやレストランが多い環境で育ったジュリオは地元のホテル学校へと進んだ。卒業後も地元の老舗ホテルの厨房やコモ湖のホテル「ヴィッラ・デステ」で修業した後、クルーズ船の料理人として世界中を回った。帰国後はミラノの「アイモ・エ・ナディア」を経てフランスへ移り、マルク・ヴェラがシェフを務めていたアヌシーの「オーベルジュ・レリダン」やイタリア国境に近いフランス南東部のレストランで経験を積む。このフランス時代にヴェネト州の三つ星「レ・カランドレ」のマッシミリアーノ・アライーモと出会い、2003年から同店のスーシェフとなり、10年間を過ごした。そして、2014年2月、縁あってヴェネトのバルバラーノ・ヴィチェンティーノでアクア・クルアのシェフとなったのである。

ジュリオの料理は、自然豊かな故郷で食べた素材の味が原点にあり、そこにアライーモ的なミニマリズムと遊び心が加わっている。野菜やハーブは自分で耕す畑で育て、季節の素材を使うためメニューは頻繁に替わる。メニューは基本的に「フラッターリ」(€90)と「イニツィアツィオーネ」(€130)の二つのコースからなる(コースを望まない向きにはアラカルトも少しだが用意されている)。フラッターリは、オープンから2年間で供された数々の料理の中から構成され、イニツィアツィオーネは、2016年末より新しく始まったコースだ。イニツィアツィオーネ、つまり、イニシエーションとは、新たなる味覚の世界への入門編という意味を込めたネーミングである。そのコンセプトは「アチド&アマーロ」(酸味と苦味)。しかしそれは、強烈な酸味と重い苦味を繰り出すわけではない。ジュリオ曰く「料理は最初のインパクトで味覚に刺激を与えるべきではない。甘みを伴った酸味と苦味のコントラストがじわじわと味蕾から味覚へと伝わっていくべきだ。そうすれば、脳は疲れることなく感動を味わえる」。

実際に味わったイニツィアツィオーネは8皿にプレ・デセールとデセールだったが、すべてが軽やかで、味わいに強さはなくとも、その分余計な刺激が邪魔をせず、素材の持つ様々な味がスムーズに伝わってくる。何よりも食べ疲れることがなく、一皿を食べ終えるごとに、次の料理は何だろうという期待感が新たに湧き上がってくるのだ。この料理に合わせ、ワインもソムリエが一皿ごとに提案してくれるのだが、前半はモーゼのリースリング、ラングドック・ルーションの白、オーストリアのグリューナー・フェリトリナーなども交え、後半にイタリアの、しかしやや変化球のピノ・グリージョ・アンブラ、コッリ・ベリチのタイ(トカイのこと)、製造工程で凍らせたフィアーノなどと続いて、飽きさせない。強烈な樽香やどっしりとした熟成といったものは一切なく、どれも個性的でありながらクリーンなセレクションだった。

さて、このアクア・クルアへ早速訪れたいと思う人に、もう一つ朗報がある。レストランは基本的に夜の営業なのだが、場所がヴィチェンツァやパドヴァから車で約30分とやや不便なところにある。そこで、遠来のお客のために、アクア・クルアでは客室を5部屋用意している。帰りを気にすることなくゆったりと食事とワインを楽しんだ後は、2階の客室へ。そして朝、昨夜の夕食が嘘のように健康的な空腹で目覚めたら、焼きたてのパンの朝食が待っている。アクア・クルアは、トラスパレンテ(透明な)水を飲んだ後のようなすっきりとしたリフレッシュ感が得られるレストランなのである。

Aqua Crua

Piazza Calcalusso,11 Barbarano Vicentino (VI)

Tel.0444-776096

www.aquacrua.it

 

 

About Manami Ikeda (325 Articles)
大学卒業後、出版社に就職。女性誌編集に携わった後、98年に渡伊。以来ずっとフィレンツェ在住。取材とあらばどこにでも行きますが、できれば食と職人仕事に絞りたいというのが本音。趣味は猫と工場見学。
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