イタリア菓子伝01 パン・ディ・ラメリーノ

初めてこのパンを食べたのは春だったか秋だったか。全く記憶がないが、ほのかな甘さとローズマリーの香りははっきりと覚えている。それまでローズマリーといえば料理に使うもので、甘いものに合わせることを知らなかったからびっくりしたのだ。その後、カスタニャッチョ(ローズマリーとレーズンを使った栗の粉の焼き菓子)を知り、トスカーナでは馴染みの組み合わせなのだと学習したのだった。

パン・ディ・ラメリーノ。ラメリーノとは、トスカーナ方言でローズマリーノ(ローズマリー)のことである。このラメリーノのパンは中世の頃、一説によれば14世紀には作られていたらしい。それも、復活祭の前のジョヴェディ・サント(聖なる木曜)のミサに捧げ、祝福を受けるためのパンだった。フィレンツェではサンティッシマ・アンヌンツィアータ教会の名と共に語られることも多い。かつてその教会ではジョヴェディ・サントのミサの後、祝福を与えられたパン・ディ・ラメリーノを恵まれない人々に配っていたという。

中世のパン・ディ・ラメリーノには砂糖を入れず(甘味料として一般的だった蜂蜜も入らない)、サイズももっと大きなものだったらしい。発酵前の生地の表面に十字に切り込みを入れ、発酵を助けると同時に神の加護を祈るのが慣わしであった。またこの切り込みは、最後の晩餐でキリストがパンを分け与えたことを想うためだったとも言われる。キリスト教に関連するパンといえばもう一つ、11月1 日の諸聖人の日及び2日の死者の日に捧げられるパン・コ・サンティがある。パン・ディ・ラメリーノがフィレンツェやプラートなどトスカーナ北側が発祥であるのに対し、パン・コ・サンティはシエナ以南の伝統で、くるみ、レーズン、黒胡椒などを使った甘さ控えめのパンだ。どちらにも共通するのは、トスカーナで日常だった塩を使わないパン生地をベースとしていたことである。

作り方は、まず、フレッシュなローズマリーをEVオリーブオイルで温めて香りを出し、レーズンはヴィンサントを加えた水につけて柔らかく戻す。天然酵母もしくはビガを準備して、小麦粉タイプ1(粉の強さW300)、砂糖を加えて練り、塩、ぬるま湯も少しずつ加えてさらに練る。滑らかな生地になったら、オリーブオイル&ローズマリーを加えてさらに練り、水気を絞ったレーズンを加え練る。生地を一次発酵させた後、小分けにして一つずつ丸め、水を少量加えた溶き卵を塗り、成形発酵させる。切り込みを入れ、再び卵液を塗ってオーブンで焼き、仕上げに砂糖と水を煮たシロップを塗る。昔の作り方との違いは、砂糖を使う他に、卵液を塗ることと切り込みがシンプルな十字ではなく、縦横に2本ずつ入れて井桁にすること。また、昔は油脂としてラードも加えることがあったが、今はバターを使うか、EVオリーブオイルのみである。

かつては復活祭の頃にしか作られなかったこのパン、今はほぼ一年中売られている。大きさも拳大の典型的なパニーノサイズで手頃。ほんのりとした甘さは朝食やおやつにちょうどいい。また、柔らかな甘みは塩味との相性も良く、伝統に則るならモルタデッラを挟んだパニーノがお勧めだ。

 

美味しいパン・ディ・ラメリーノが買えるところ(いつもあるわけではない)

C.BIO

Sforno

 

N.B.

日本では、薄く細長いパンに具を挟み、グリラーで上下焼き目をつけたホットサンドをパニーニと呼ぶことが多いが、パニーニとはパニーノ(小型パン)の複数形で、サンドイッチを指す言葉ではない。