フラントイオ訪問記  Il Colle

Azienda Agricola Il Colle

フィレンツェから路線バスに乗って30分余り。終点のアンテッラで降りる。地図で言えば、フィレンツェの南東10キロほど。高速道路A1がすぐ傍を通っている小さな集落だ。目指すオリーブオイル農園Il Colleは件のバス停から2キロ弱のところにある。電話をするとオーナーのフラヴィア・パオレッティが迎えに来てくれた。フィアット500Lから勢いよく降りて来た彼女は、よく日焼けしているが、とても農家には見えない。スレンダーで、真っ白なスニーカーを履いている。イタリアには「お仕事は?」と聞くと、見た目のイメージからは想像できないような職業を答える人が多いが、彼女もその典型か。話を聞けば、旅行関係の仕事に携わっていたが、現在の夫と出会った後の1993年にIl Colleを購入。95年からオリーブオイルの製造を開始した。夫は会計士の仕事をメインに続け、農園はフラヴィアが管理している。

オーナーのフラヴィア・パオレッティ

アンテッラの集落を抜け、木が生い茂る一車線の砂利道を進んで程なくしてIl Colleに到着。まずはアグリトゥリズモを案内してくれる。「一番見晴らしのいいところに宿泊施設を作ったの。アパルタメントを2棟。それから小さいけどジャグジー。このジャグジーからフィレンツェが見えるのよ」。確かに遠くにドゥオモのクーポラが見える。電線が少々邪魔しているが、オリーブの木が視界のそこかしこに映り、気持ちのいい場所だ。「いいところでしょう?だから、宿をやれば絶対にお客さんが喜ぶと思ったの。でも、意外と人が来ない。アパルタメントは長期滞在向けだから敬遠されるのかも、と思ってB&Bに転換してみたの。それでも今ひとつ。なので、朝食も出すアパルタメントという折衷案でやっているところ。この辺りはみんな同じ考えでアグリトゥリズモや滞在型のアパルタメントをどんどん作っているけど、おしなべてダメね。それでも少しずつお客さんは増えてきた。車でキャンティを回るという人たちの拠点になるから」と、ここまでフラヴィアは一気に話す。すごくエネルギッシュな人である。その勢いのまま、オリーブ畑について説明してくれた。

農園は2003年に有機栽培への転換を開始、2006年から正式にビオの認証を獲得している。オリーブ、葡萄、果物全て有機栽培だ。およそ18ヘクタールにオリーブの木は5200本。主な品種はフラントイオ、モライオーロ、レッチーノ。畑は、北西向きの緩やかな丘の斜面を利用し、高度の低い一部は自家用ワインのための葡萄畑になっているが、アグリトゥリズモより上の斜面はほぼ全てオリーブ畑だ。土壌は粘土質と粘土混じりの石灰土。日当たり、風通し共に良く、日中は気温が上がるが、夜はしっかり下がる。オリーブ最大の敵である湿度は極めて低く、よほど雨の多い年以外は不良になることはない。

次に、フラントイオ(搾油施設)を見せてもらう。アグリトゥリズモの受付を兼ねた小さな小屋で、カウンターの向こうに搾油場がある。“場”というより、部屋と言った方が適切か。そのくらいこぢんまりとしたスペースにフランジトーレ(破砕機)、グラモーラ(攪拌機)、デカンター(遠心分離機)、濾過器、保存用のステンレスタンクが収まっている。機械は全てMORI TEM社のモノブロックシリーズでコンパクト。グラモーラは縦型で省スペース、デカンターは水を使わない2フェーズ式。これらの設備を導入する2008年以前は近隣のフラントイオに委託していたのだが、クオリティに満足できず(「機械の洗浄は不十分だし、搾油の順番を後回しにされることも頻繁だったから」)、小さいながらも自前の設備を整えたのである。その結果、IGPトスカーナである「Verde del Colle」は2013年のOlio Capitale(トリエステ)のフルッタート・メディオ(ミディアム・フルーティ)部門で1位を獲得したのを皮切りに、Flos Olei、VinitalyのSol d’Oroなどのコンテストで入賞を果たした。2017年収穫についてはSol d’Oro2018のフルッタート・インテンソ(インテンシヴ・フルーティ)部門の3位に選ばれている。

Il ColleのオリーブオイルはIGPトスカーナの「Verde del Colle」一銘柄である。が、ロットによって味わいが異なる。フラヴィアが試飲させてくれたのは2017年収穫分の三つ。一つ目は刈りたての青い草の香り、青いアーモンドの香りが際立ち、苦味・辛味のバランスが良い、エレガントなタイプ。二つ目はまず最初にハッとするような野生のミントやネピテッラに似た清涼感のある香りがし、苦味・辛味は一つ目よりやや強く存在感がある。これが、Sol d’Oroで3位に選ばれたロット。そして三つ目は、ローズマリーの清冽な香りで味わいも全体に力強い。苦味・辛味が行きすぎるぎりぎり手前の、言うなれば非常にトスカーナ好みのオイルだ。Olio Capitaleでは、ローズマリーを漬け込んだコンディメント・オイルかと疑われたほど個性的で、フラヴィアはこのオイルを茹でたジャガイモやいんげんにかけるのが最高の食べ方だという。

IGPトスカーナ「Verde del Colle」。左は全体にバランスが取れたエレガントさが特徴、中央はネピテッラのような野生のハーブの香りが鮮明でSol d’Oroで3位獲得、右はローズマリーの香り。

昨年は気温が高く、雨が降らない夏だった。今年は春先の雨が例年より多かったが、今のところは問題はない。これからしばらくすると花が咲く。そこからが本格的なオリーブの季節のスタートである。今年のオイルがどうなったか、収穫が開始する10月10日を過ぎた頃、再び訪ねてみようと思う。

About Manami Ikeda 68 Articles
池田愛美 Manami IKEDA ジャーナリスト、コーディネーター 出版社に女性誌編集者として勤務後、1998年イタリアに渡る。旅と料理の分野でインタビュー、取材、撮影、執筆、講演活動を日本、イタリア両国で行う。主な著書に「シチリア美食の王国へ」「サルデーニャ!」「フィレンツェ美食散歩」「ローマ美食散歩」「アマルフィとカプリ島」「伝説のトラットリア・ガルガのクチーナ・エスプレッサ」「Dolce!イタリアの郷土菓子」「極旨パスタ」「最新版ウイーンの優雅なカフェ&お菓子」など多数。

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