イタリア菓子伝04 コロンバ

Colomba pasquale

復活祭が近づく2月の終わりから3月にかけて、スーパーや菓子店の一番目立つところにあるのが卵型のチョコレート、その次に目につくのはコロンバ。コロンバ・パスクアーレとも呼ばれる、鳩(コロンバ)をイメージした発酵菓子だ。初めて見たときは、「え、どこが鳩?」と思ったほど、かなりデフォルメされた鳩だが、1930年代にミラノの製菓会社Mottaがクリスマスのパネットーネの生地を活かせないかと編み出したのが始まりだと聞いて、納得。パネットーネと同じであれば、型はなるべく凹凸がなく均一に火が入るようなフォルムが望ましい。ギリギリ「鳩かも」と思える妥協点があの形だったのだろう。ともあれ、鳩をかたどった復活祭の菓子はシチリアなどにもあり、鳩をこの時期の菓子のモチーフにすること自体はかなり昔からあったという。

よく語られるのは、聖コロンバーノ(コロンバヌス)にまつわる伝説だ。6世紀のアイルランドに生まれたコロンバーノは、キリスト教修道士として守るべきこと行うべきことを規範としてまとめ、ヨーロッパ各地に修道院や教会を設立した人物である。コロンバーノがローマ教皇の謁見を求めて南下の旅をしていた時、ミラノを訪れ、当時イタリアを支配していたロンゴバルド(ランゴバルド)族の王アジルルフォ(アギルルフス)と王妃テオドリンダの食客となった。当時、イタリア北西部の司教たちは、東方教会とローマ教皇がコンスタンティノープル公会議(553年に開催された第5回会議)で採択した結論に反発し、政治問題に発展していた。アジルルフォ王はコロンバーノにこの問題の解決を依頼、コロンバーノは西側(コモ)と東側(アクイレイア)の司教を話し合いの席につけることに成功。王はコロンバーノに謝意を表し、祝宴を設けたのだが、折しも時節は四旬節(肉食を断ってキリストの復活を祈る時期)、食卓に並んだ数々の肉料理にコロンバーノは手をつけなかった。それを侮辱ととった王と王妃がコロンバーノを責めたところ、食卓上の料理の鳩が白い羽を羽ばたかせて飛び立っていったという。この逸話から、聖コロンバーノの象徴は鳩となり、復活のシンボルともされ、復活祭に鳩をかたどった菓子を供えるようになったと言われる。ちなみに、食卓にあった鳩料理が、鳩の形をした甘いパンになったという説もある。

聖コロンバーノは登場しないが、やはり、ロンゴバルド族の時代を舞台にしたもう一つの伝説では、初代の王となったアルボイーノ(アルボイン)が3年の包囲ののち入城を果たしたパヴィアで、地元のパン職人から鳩の形をした甘いパンを「復活祭に捧げる平和のシンボル」として贈られたことに由来するという。残忍な性格だったとされるアルボイーノにコロンバを平和の印だと贈るのは、嫌味と捉えられればそれこそ斬首に処される危険がある。だから、実際にはそのような出来事はなかったのかもしれないが、バルバロ(バーバリアン、蛮族)と呼バレるロンゴバルド族によるイタリア征服は、イタリアの歴史にとって暴力的非文化的な時代の始まりを意味する。それゆえに平和のシンボル=鳩が重要なアイコンとなったという希望を込めた伝説なのだろう。

現在のコロンバは、先にも述べたようにミラノのMotta社が作り出した。パネットーネと同じように全国区の菓子として成長させるにはどうしたらいいかと考えた当時の社長アンジェロ・モッタは、出来上がったコロンバを著名な作家やジャーナリストに送り、効果的な宣伝文を考えて欲しいと依頼した。それに答えた科学者であり医者であったエルネスト・ベルタレッリは「コロンバはノアの時代にまで遡る平和の印であり、仔羊よりもずっとシンプルで血なまぐささがない。このコロンバは平和と春を意味するお菓子だ」と書いている。こうしたMotta社の大々的な宣伝のおかげで、コロンバの知名度は高まり、ミラノ発祥の菓子として定着。ロンバルディア州のP.A.T.(Prodotti Agroalimentari Tradizionali イタリア農林食品政策省が定める州ごとの伝統的食品)にも認定されている。

さて、コロンバの基本的な作り方はパネットーネにほぼ同じで、天然酵母もしくはビガを使って元種を作り、小麦粉、卵、砂糖、牛乳、バター、塩、すりおろしたオレンジの皮、好みのドライフルーツを加えて練り、コロンバ用の型に入れて発酵させ、表面に卵黄を塗り、アーモンドとシュガースプレーをトッピングしてオーブンで焼く。

一月の終わり頃から、キッチン道具の店などでコロンバ用の紙製の型が売らているのを見かけるが、コロンバもパネットーネも天然酵母で作るものというイメージからか、家庭で手作りする人はなかなかいない。お気に入りのパン屋や菓子店でプロが作ったものを買ってお土産や贈り物にするというのが一般的だ。手作りでも買ってきたものでも、食べる時は、電子レンジで軽く温める。すると、バターやフルーツの香りが引き立ち、なんとも言えぬ幸福な気持ちになれるのである。

 

 

About Manami Ikeda 68 Articles
池田愛美 Manami IKEDA ジャーナリスト、コーディネーター 出版社に女性誌編集者として勤務後、1998年イタリアに渡る。旅と料理の分野でインタビュー、取材、撮影、執筆、講演活動を日本、イタリア両国で行う。主な著書に「シチリア美食の王国へ」「サルデーニャ!」「フィレンツェ美食散歩」「ローマ美食散歩」「アマルフィとカプリ島」「伝説のトラットリア・ガルガのクチーナ・エスプレッサ」「Dolce!イタリアの郷土菓子」「極旨パスタ」「最新版ウイーンの優雅なカフェ&お菓子」など多数。

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