「サンペレグリノ・ヤングシェフ」藤尾康浩氏インタビュー前編

「サンペレグリノ・ヤングシェフ」に日本人として史上初めて優勝した藤尾康浩氏に大会期間中密着取材。まず5月12日(土)大会初日は7時過ぎにルカ・ファンティンとともに会場入り。13時から特設キッチンで調理を始め、大会規定である5時間後に審査員7人に料理を提出。試食と質疑応答、という流れで審査が進んだが、会場入りした12日朝の時点でのインタビュー。

「まずは、本当に多くの人が関わっているのを見てびっくりしています。会場の規模も大きいし、ホテルやトランスファーなどのオーガニゼーションもしっかりしているのでまずはそれに驚いています。

フランス修行時代はマウロ・コラグレコがシェフをつとめた南仏マントンにある『ミラズール』や『パッサージュ53』にいましたが、このような世界的な料理コンクールに参加したことはなく、今回が初めての体験です。

今回調理する「Across the sea」は鮎をメイン食材にした料理です。調理法としては鮎の中身、フィレと内臓を皮を取り残したままくり抜き、中身でムースを作り、皮に戻して焼き上げています。料理のディテールは予選とは少し変えてきています。というのもルカ・シェフにすべての部分で多大なアドバイスをいただき、よりわかりやすく、より美味しく、というのを目指しています。」

Q:メイン食材の鮎を持ってくるのが大変だったと聞いてますが?

「そうですね、どういう状態で持ってくるのがベストか、ということをいろいろ考えてスースケースで持ってきました。今日13時から調理開始ですが、実は僕は結構周りに影響されやすいんで他のヤングシェフの調理などはまだ全然見てないんです。というよりもいまは見ないようにしてまして、自分の出番が終わった後にじっくり見ようかなと思ってます。」


Q:この大会は勝敗よりも同世代のシェフや大ベテランのトップシェフなど、いろいろな人と交流できるのが最大の魅力だと思いますが、現在までの交流はいかがですか?

「実は昨日の夜もオープニング・パーティのあと、ルカ・シェフやイタリア代表メンター、アントニー・ジェノヴェーゼ・シェフ、北東アジア代表メンター、ウンベルト・ボンバーナ・シェフたちと一緒に食事に連れて行っていただいたのですが、イタリアの巨匠3人と一緒でとても楽しかったです。でも実は昨日レストランに向かうタクシーの中に携帯電話を落としちゃって。食事中もルカ・シェフがずっと電話しながら探してくれて、ようやく見つかりました。なので楽しかったんですけど、実はずっと冷や汗の食事会でした。」

 

Q:今回の審査ポイントは4点あります。食材、技術、美的センス、そしてメッセージ性。現代の料理や味や見た目はもちろん、それを超えてシェフ自身のアイデンティティの表現を含めたメッセージが重要ですが、それについてはどうでしょう?

「日本の文化を翻訳し、大勢の人に伝えるというのがまず大きなコンセプトとしてあります。鮎というのは炭火で焼いて塩だけで食べるというのが日本では最良の食べ方とされています。今回参加するにあたり「龍吟」の山本さんにもうかがいましたが海外の方は魚は食べても頭や内臓は苦手というケースがやはり多いそうです。では、日本人が鮎は特別、と思っておりその特徴をどれだけわかりやすい形で、つまり翻訳して伝えられるか、ということがコンセプトです。それは日本文化を伝えるという大きな枠の中で自分の歩いてきたバックグラウンドを、海外で暮らしていた時間が長いのでそういうバックグラウンドを含めたよりグローバルな解釈で伝えていきたい、それが料理に込めたメッセージです。

なぜ鮎を選んだかというと、鮎は日本のスピリットを最も表現している食材だと思っているからです。他には日本特有のサブ食材としてはミョウガが加賀太キュウリを持ってきていますが、とにかく食材としては鮎にフォーカスしています。」
藤尾氏の審査員へのプレゼンテーションはこんな言葉で始まった。

 「今日はこの料理を通じてみなさんに日本の食文化をご紹介したいと思っています。まず1点は季節感、わたしたち日本人は季節をとてもたいにします。鮎も今この季節しか食べることができない魚なのです。2点目はシンプルさ複雑さ。というのも日本人は表現が苦手であまり話さないように思われがちですが、
 その実内面には情熱を秘めているのです。この料理も実にシンプルですがその内部には複雑さ、さまざまな技巧を凝らして調理していますので、そうした部分をご理解いただければと思います。3点目は周囲の環境と調和しながら暮らすということです。自然はもちろん人間など、あらゆる環境へのリスペクトがテーマです。」
ドミニク・クレン「この竹とコンソメは何を表現しているのですか?」
 藤尾氏「川の水です。しかしもちろん本当に川の水ではなく、実際はキュウリ、スイカ、メロン、青トマトを使い、川のと鮎のアロマを表現しました。
 ドメニク・クレン「鮎の中身はなんですか?」
 藤尾氏「鮎のムースです。鮎の身と、鮎が生息する川の周囲に自生しているクレソンに似た日本のハーブを使い、皮の中身に戻して再び調理しました。」
アナ・ロス「あなたはこれまでいろいろ旅をしたり、外国で生活してきましたか?」
 藤尾氏「はい、わたしは10年間ヨーロッパに住んでいました」
 アナ・ロス「レストランでも働いていた?」
 藤尾氏「その頃はまだ学生だったのですが、レストランで働いたりしていました。」
 アナ・ロス「料理を学ぶ学生だったということ?」
 藤尾氏「いえ、ビジネスの勉強をしていましたが料理の方が面白くなったので仕事を変えました。」
 マルガリータ・フォレス「今回どんな風に鮎を運んできたのですか?」
 藤尾氏「それが一番の問題でした。とにかく丁寧に、鮮度を落とさないように、それだけを心がけていました」
 アナ・ロス「魚も非常にいいし、その周囲も素晴らしい。よくできてると思います」

インタビュー後編に続く