「サンペレグリノ・ヤングシェフ」ルカ・ファンティン、インタビュー

「感動的な大会でした。ここに来るまで8ケ月間準備してきましたし、言葉では言い表せないような気持ちです。何度も何度も試作しては失望したり疑問を感じたり、私自身も非常に重い責任感を感じていました。なぜなら日本人のヤングシェフを母国イタリアに連れてくるわけですし、日本に住んでいるわたしが彼を選んだのですからその責任は非常に重い。唯一心配していたのは、この料理でうまく日本を表現できるかどうか、ということでした。味も盛り付けも全ての要素で日本そのものを表現する料理にしないといけない。最終的にはうまく成功したと思いますが、それには何度も何度も試作を繰り返してきたからです。

もうひとつ不確定要素があったとしたら、審査員のシェフたちにこのメッセージがきちんと伝わるかどうかということです。わたしは日本のことも日本料理も食材も、季節感も味も組み合わせも理解しているつもりです。しかし、だからといって審査員にそれがうまく伝わるとは限らない。でも最終的にわたしたちは、料理で表現したかったことをうまく伝えることができました。それはなにかというと一口目で日本を感じてもらうことです。一体ここはどこなのか?ミラノにいながらにして、まるで日本にいるようだ、そう感じてもらえいたかったのです。

具体的には鮎とコンソメの温度に注意を払いました。この料理はミニ懐石であり、日本の風景なのです。日本の緑、葉、山椒の香り、こうした小さな要素が最終的にはシンプルだけでも確かなパースナリティを生み出すのですが、それは実に難しいことでもあります。でも、優勝という結果を手にして、ああ、この数ヶ月いい仕事をしてきたんだなぁ、といま実感しています。

実は昨日から本当にプレッシャーを感じていて、こんな風に手が震えるのはいままでに何度もありませんでした。自分が料理する際はまた違う責任感があるのですが、こうしてヤングシェフを導き、彼の感情を料理に表現させるということはさらに重い責任感がありました。

正直なことをいうとまさか優勝までできるとは思っていなかったのです。わたしたちが意図していたこと、イタリアに来た目的は、勝つこと、ではありませんでした。なにかを表現するために来たのです。実は日本にはヤングシェフというのはそう多くありません。日本のヤングシェフは大抵誰か他のシェフの下で働いていて自分の考えや感情を表現する自由があまりない。今回の優勝がそうしたヤングシェフたちに勇気と自信を与えられたらいいなと思っています。日本のシェフは技術も責任感も食に対する情熱もあります。ですから日本のヤングシェフたちはこうした彼らを包む殻から抜け出さないといけません。ヨーロッパでは25歳、26歳ですでにシェフとして活躍している若者は多いのです。

今回の大会を見てもわかるように、彼らは自己表現が実にうまいし、TVカメラの前でも全くものおじしない。もしかしたら私よりも話はうまいかもしれない。今朝最終組のヤングシェフのプレゼンテーョンを見ましたがみなうまいし、レベルは非常に高い。実は昨日は会場入りしてから帰るまで、12時間緊張しっぱなしで、他のヤングシェフの料理は全く見ていないんですね。彼には時間や温度などディテールに注意を払うようアドバイスしました。結局そうした細かい作業の積み重ねが優勝につながったのだと思います。料理とはピアノのようなものですから、ひとつのミスタッチでメロディーも変わってしまうのです。

これは今回気がついたことですが、他のメンターは誰もヤングシェフの料理を試食していませんでした。でもわたしは「Across the sea」を審査開始の10分前に仕上げてもらい、試食しました。審査員を一口目で感動させないといけないので、油分や塩が正しいかどうか、100%確信を持って審査に挑みたかったのです。審査員たちが試食している時、わたしは観察していましたが、アニー・フェオルデ、アナ・ロス、ヴィルヒリオ・マルティネス、みな一口目で表情が変わり完食していました。1日に14皿試食する料理コンテストで完食するとは普通ありえない。でもかれらの食べ方を見て、ああ、これはいけるな、と確信しました。その結果わたしたちは優勝することができたのです。」