クチーナ・ミクロ・テリトリアーレの時代到来

イタリアはヨーロッパで最も多くDOP、IGT、STGというEU認定の原産地保証食品を有する国である。おそらくは最も有名なプロシュット・ディ・パルマ、パルミジャーノ・レッジャーノを筆頭に、2018年2月現在で合計296。これに続くのがフランス、スペイン、ポルトガル、ギリシャといった地中海沿岸諸国であり、北欧諸国は限りなくゼロに近い。昨年ローマで行われたガンベロ・ロッソ・インターナショナル発表会の際にコペンハーゲンの1つ星イタリア料理店「エラオーラ」のオーナー、エルヴィオと知り合ったが、彼はこんなことを言っていた。「イタリアや日本では季節の食材は当たり前だが、季節感がない国の方が世界には圧倒的に多い。デンマークの季節の食材といえば夏ジャガイモと冬ジャガイモぐらいしかないんだ」

確かにそういう点においてイタリアという国は食材に恵まれている。イタリアのテロワールを表現する際に生物多様性=ビオディヴェルシタ、ということがよく使われるが、それもそのはず。ローマ帝国崩壊以後、イタリアという統一国家が誕生したのは1860年と日本の明治維新とほぼ同時期。それまで1500年の間小国分裂状態が続いたことにより郷土料理や食材は独立性が保たれてきたのだ。

90年代に活躍したシェフ、ジャンフランコ・ヴィッサーニはこういう。「本来イタリアにはトスカーナ料理、シチリア料理といった州別料理は存在しない。なぜなら州という概念が誕生したのはイタリア統一後のことで、イタリア料理はその遥か昔から存在している。ゆえにすべてのイアリア料理は地域料理=クチーナ・テリトリアーレであるべきだ」

ヴィッサーニの発言から20年が経過し、現在のイタリアは地域性をより重視した局地的地域料理=クチーナ・ミクロ・テリトリアーレの時代に突入している。例えばここ数年、イタリアに誕生したミシュラン3つ星店をみてみれば「オステリア・フランチェスカーナ」(モデナ)、「ピアッツァ・ドゥオモ」(アルバ)、「レアーレ」(アクイラ)、「ダ・ヴィットリオ」(ベルガモ)と旅行でもそう簡単には行かない地方都市から誕生しており、それ以前にさかのぼれば「ダル・ペスカトーレ」(マントヴァ)、「レ・カランドレ」(パドヴァ)などいずれも地域の伝統を遵守しつつファイン・ダイニングへと昇華させるのに成功した店が栄誉を獲得している。その象徴的な現象が2018年度ミシュランで3つ星を獲得した「サント・ウベルトゥス」だ。

56歳のシェフ、ノルベルト・ニーダーコフラーはすでに2007年以来11年間2つ星を維持しており、すでにイタリア国内ではその名は知れ渡っていた。北イタリアの山岳地方ドロミテで生まれ育った彼は外国や「ダル・ペスカトーレ」での経験をへて生まれ故郷のドロミテに戻り1996年に「サント・ウベルトゥス」のシェフに就任。ドロミテの食材しか使わないというクチーナ・ミクロテリトリアーレの権化であり、史上初めてトレンティーノ・アルト・アディジェ州に3つ星をもたらした。同じ3つ星のニコ・ロミートもアブルッツォ州の山奥でクチーナ・ミクロテリトリアーレを展開しているがイタリアは現在は未知の食材、未知の料理への出会いを求めるフード・エクスペリエンスの時代である。ミラノではなくローマでもフィレンツェでもない、未知の土地で地方特性を重視した料理こそが求められている。それは地域密着型のフード・ツーリズモにもつながるのだが、地方発の料理に注目が集まることは、日本の地方部でイタリア料理を展開する料理人たちにとっても大いに勇気付けられることなのではないかと思う。

St Hubertus
Tel+39-0471-849500
Strada Micura' de Ru 20, 39036 San Cassiano(BZ)
Hotel Rosa Alpina内
www.rosalpina.it
Masakatsu IKEDA
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池田匡克 Masakatsu IKEDA ジャーナリスト 1967 年東京生まれ。出版社勤務後1998 年イタリアに渡り独立。旅と料理のビジュアル・ノンフィクションを得意とし、イタリア語を駆使したインタビュー、取材、撮影、執筆、講演活動を日本、イタリア両国で行う。主な著書に「シチリア美食の王国へ」「イタリアの老舗料理店」「サルデーニャ!」「フィレンツェ美食散歩」「アマルフィとカプリ島」「Dolce!イタリアの郷土菓子」「世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ」など多数。2005年よりイタリア国立ジャーナリスト協会所属。株式会社オフィス・ロトンダ代表取締役。2014年国際料理大会Girotonno、Cous Cous Festに日本人として初の審査員に選ばれる。2016年レポーター・デル・グスト賞受賞。