パスタの歴史その6 ルネサンスのパスタ(全9回)

ルネサンス時代のパスタ

文化黎明の中世末期から15世紀ルネサンス時代へと移り変わると、食の分野も「シンプルな調理」から「バランスと洗練の料理」へ変遷を遂げていった。この時代に、ガストロノモと呼ばれる美食家、美食研究家が輩出し、各が料理書を表している。有名なところでは、マエストロ・マルティーノ、バルトロメオ・サッキ(別名プラティーナ)、クリストフォロ・ディ・メッシスブーゴ、バルトロメオ・スカッピなどがいる。

マエストロ・マルティーノは、自著「Libro de arte coquinaria」(料理芸術の書)では、ジェノヴァ風マッカローニ、古代ローマ風マッカローニ、シチリア風マッカローニなどのレシピを紹介しているが、古代の料理書の作り方は分量もなにもなく、非常に大雑把な説明で終わっているのに対し、緻密な分量と細かい指示つきで記している。たとえば、アーモンドはすり鉢でよくよくすりつぶさなければならないし、にんにくは細かく刻み、ヤギの皮で作った一種の濾し器を通さなければならない。シチリア風マッカローニの作り方を引用すると「上質な粉に卵白、ローズ水もしくは水を加え練る。好みで分量を増やしてもよいが、卵白2個分を越えないように。しっかりとした固い生地を作り、手のひら分くらいの長さに切り分け、麦わらのように細くのばす。手のひら分くらいかそれ以上の長さの針金を生地の上におき、両手で転がす。巻き付けたら、針をはずす。穴のあいたマッカローネができあがる。これを天日で干す。とりわけ7月〜8月に作ったものは2~3年の保存が可能。調理は、水もしくは肉のブロードで。皿に盛り、すりおろしたチーズをたっぷりかけ、フレッシュなバター、甘い香りのスパイスをかける。このマッカローニのゆで時間は2時間」といった具合だ。

16世紀の終わり頃、パスタのレシピは素材が豊かになり、卵、牛乳、乳製品、特にバターはラードに並ぶ重要性を獲得した。“牛乳の膜”と言われた生クリームも珍重された。レシピの分量、作り方ともにより詳細となり、バンケットで供されるようなリッチで高級でディテールにこだわった料理が出現している。こうして、中世の頃のような素朴なパスタは、ルネサンスを経て、貴族向けの宮廷料理に昇華していった。

ただ、その内容は現在の料理とはだいぶ異なるところもある。断食時には、牛肉や去勢鶏のブロード、魚のブロード、普通はフレッシュバターや砂糖入りアーモンドミルク、ヤギの乳などを加えた塩入りの湯でパスタを調理した。こうしてすでに下味がついたパスタは、卵、はちみつ、バター、チーズ、甘い香りのスパイスをほどこされ、仕上げの調味には砂糖やシナモンがよく使われた。また、社会階層によって使う調味料が異なるものもあり、貴族や聖職者たちはオリーブオイルやバター、庶民の間ではラードが中心だった。どちらもがよく使った、唯一の塩味の調味料はチーズであった。

 

 

Masakatsu IKEDA
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池田匡克 Masakatsu IKEDA ジャーナリスト 1967 年東京生まれ。出版社勤務後1998 年イタリアに渡り独立。旅と料理のビジュアル・ノンフィクションを得意とし、イタリア語を駆使したインタビュー、取材、撮影、執筆、講演活動を日本、イタリア両国で行う。主な著書に「シチリア美食の王国へ」「イタリアの老舗料理店」「サルデーニャ!」「フィレンツェ美食散歩」「アマルフィとカプリ島」「Dolce!イタリアの郷土菓子」「世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ」など多数。2005年よりイタリア国立ジャーナリスト協会所属。株式会社オフィス・ロトンダ代表取締役。2014年国際料理大会Girotonno、Cous Cous Festに日本人として初の審査員に選ばれる。2016年レポーター・デル・グスト賞受賞。