北欧ガストロノミー最前線3 Food & Art 芸術家の食卓

Food&Artにおけるメインテーマである食とアートの融合、において世界各地から集まるシェフたち同様に重要なのがアートの側面だ。実業家グスタフ・アドルフ・セラキウスが遺したコレクションは、セラキウス家がマナーハウスとして利用していた旧館内に保存されており、入館者は自由に見学することができる。フィランドの建築家、ヤール・エクルントにより1935年に建てられたマナーハウスは、当初はグスタフ・アドルフ・セラキウスがゲストを招く商談の場として活用しており、地下には夜な夜なワインを楽しんだという、暖炉と壁画のある食卓が当時そのままの姿で残されている。1945年にはすでに建物の一部が美術館となったが、これはフィンランド史上8番目の美術館で、1984年には全体が美術館となった。主に収められているのはフィンランド黄金時代と呼ばれる20世紀初頭の作品だ。ロシアとスウェーデンに挟まれていることから、常に自治の問題に悩まされていたフィンランドは、19世紀末になるとナショナリズムが高揚。ロシア革命によるロシアの混乱を経た1917年、念願の独立を勝ち取るのだがこうしたナショナリズム高揚の時期に絵画やシベリウスの音楽のような芸術が勃興したのはイタリアにおける国家統一、リソルジメント運動の時期にヴェルディの一連のオペラが支持されたのと酷似している。マナーハウス内ではこうしたフィンランド黄金時代のプロレタリアートな作品やモネの作品など、小さなスペースながらも堪能することができる。

一方、パヴィリオンはバルセロナの建築事務所により2014年に完成。木をふんだんに使い、周囲の環境に溶け込むような作りになっている。旧館とはことなり、パヴィリオンに展示されているのはコンテンポラリーアートやコンセプチュアルアート。現在展示されているのはベルギー人アーティスト、 Koen Vanmechelen コーエン・ヴァンメヘレンの作品群だった。コーエンは人間を含む動物たちの種の起源と保存をテーマにしたコンセプチュアル・アートを発表し続けているが、パヴィリオンにはコーエンが自ら採集して保存した世界中の鶏を剥製にした巨大な作品や、その死んだ鶏の羽を集めて作ったコートなどが展示されていた。

ショッキングな作品を作るとはいえ、このコーエンは実に穏やかなフレンドリーな人柄で、Food&Artでは自ら厨房に立ち、限定ランチをゲストにふるまっていた。というのもコーエンはかつて料理人として、星付きレストランのシェフを務めたこともあるほどマルチな才能の持ち主なのだ。この日「アート・ランチ」というタイトルで、コーエンとパヴィリオン・レストランのオーナー・シェフ、Henry Tikkanen ヘンリー・ティッカネンがコラボして作った料理は以下の通りだ。

地元の山羊の乳を使ったリコッタ風クリームチーズと小エビ、パンプキンオイルとスプラウトの前菜。森のキノコのエキスだけインフュージョンで抽出し、フォワグラとあわせた温かい料理。メインは北海産のタラのグリルと人参のピューレとグラッセ。そしてフィンランドの夏の味覚、森のブルーベリーを使ったムースとジェラート。アーティストの作る料理は、今回世界中から集まった招待シェフたちに負けず劣らず。一連の料理から感じる、堂々とした彼の世界観には打たれっぱなしだった。コーエンは子供たちに見せるために美術館の敷地内で在来品種の鶏を飼育し、マンガリッツァ豚も湖に浮かぶ小島に放し飼いしている。動物の生と向き合うことを生涯のテーマに選んだコーエンにとっては、料理を作ることもそのアーティスト活動の一環なのである。料理とアートの融合、というテーマをよく耳にするがそれは単なる盛り付けに技巧を凝らした表層的な事象では無く、実は形而上的要素を加味して深く人間の存在理由を問う崇高な行為なのである。コーエンの料理を口にし、作品を見た後、フィンランドの森を歩きながらそんなことを考えてみた。コーエン・ヴァンメヘレンの公式サイトはこちら。

www.koenvanmechelen.be

 

 

 

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