トップシェフたちのアマトリチャーナ論

今年で3回目となるアマトリチャーナデイも近づいてきたが、本家イタリアでは例年同様今年も引き続きシェフたちによる支援活動が活発だ。レストランでアマトリチャーナを提供するシェフもいれば、チャリティ・イベントで大量のアマトリチャーナを作り続けるシェフもいる。また、ピッツァの世界でも「ピッツァ・アマトリチャーナ」という新興ピッツァも支援のシンボルとして市民権をえ始めている。一方、トップシェフたちが牽引するガストロノミー界ももちろんアマトリチャーナに無関心ではいられない。

昨年発売された料理書「アマトリチャーナ」では、イタリアを代表するトップシェフ34人がそれぞれのアマトリチャーナをレシピとともに紹介しており、また違った側面からこの伝統料理を知る貴重な機会を提供してくれている。シェフたちのトップを飾るのは、昨年12月にこの世を去った偉大なる料理人グアルティエロ・マルケージ。晩年のマルケージにとってアマトリーチェ支援レシピ作成はおそらく最後の仕事のひとつだったはずである。彼の料理は「Insieme ともに」。タイトルからわかるようにこの料理はアマトリーチェ支援に対する連帯をモチーフとしていることに疑いはないが、それはマルケージの代表的料理である純白のリゾットの中央にリガトーニ・アマトリチャーナが円形に盛り付けられたものだった。突き抜けていた80年代から変わらずアバンギャルドであり続けるマルケージのメッセージは単純明快、そして強烈なメッセージを投げかけてくれる。「Insieme」とはリゾットに代表される北イタリアと、アマトリチャーナの中南部イタリアの融合であり、料理を通じて世界中が連帯することへのメタファーなのだ。

マルケージの後にはトマトソースを使った定番の「Salsa all’Amatriciana Rossa」の料理が続く。マッシモ・ボットゥーラがバルサミコ、パルミジャーノ・レッジャーノを使った「Amatriciana a Modena モデナのアマトリチャーナ」を作れば、マルケージ門下生であるダヴィデ・オルダーニはアマトリチャーナの紙包み焼き「Amatriciana al Cartoccio アマトリチャーナ・アル・カルトッチョ」を披露。これもかつて一斉を風靡したクラシック料理とアマトリチャーナを融合させたものだ。ヴァレリア・ピッチーニはトスカーナらしくスパゲッティの代わりにピーチを使った「Picci all’Amatriciana ピーチ・アッル・アマトリチャーナ」を作り、ダヴィデ・スカビンは全ての食材を圧力鍋で調理し、リガトーニを積み重ねたプレゼンテーション「Rigatoni sotto pressione プレッシャーに耐えるリガトーニ」を見せてくれた。これは瓦礫をイメージさせるとともに、リガトーニを人間に見立て、困難下でも必須に奮闘するアマトリーチェの人々の姿を現している。

アマトリチャーナの原型は、トマトが食用となる18世紀以前から存在しており、トマト無しのバージョンはアッラ・グリーチャ Alla gricia、ホワイト・アマトリチャーナとも呼ばれているが、エンリコ・クリッパ、ジャンフランコ・ヴィッサーニらがこのグリーチャのオリジナル・バージョンに取り組んでいる。

また、アマトリチャーナの構成要素であるトマトソースとペコリーノを詰め物パスタの具としたものは「Amatriciana nel Cuore 心の中のアマトリチャーナ」というカテゴリーで紹介。イタリア伝統の手打ちパスタでアマトリチャーナを包み込みという象徴的な料理は、見ただけで人を感動させる力を持つ。エルネスト・イアッカリーノやジャンカルロ・ペルベッリーニらがこの感動的なパスタに挑んでいる。

その他のカテゴリーに分類されるアマトリチャーナは「Alternativi ispirati その他インスパイヤ系」と紹介されており、パニーノやアランチーノなどのフィンガーフードにしたものは「Amatriciana to go テイクアウェイのアマトリチャーナ」として掲載。アマトリチャーナが持つさまざまな形態での可能性を披露してくれている。

我々日本人は、アマトリチャーナを作り、食べ、考える際、永世定番であるスパゲッティあるいはリガトーニでなければならないという固定観念にとらわれがちだが、イタリア人の発想はよりリベラルでフレキシブルだ。アマトリチャーナはピーチやリゾットと結びつき、時にはラヴィオリやトルテッリーニに姿を変え、時には手打ちパスタの生地にまで練りこまれてその姿を表す。パニーノやピアディーナの具となり、サラダとなり、アランチーノやカンノーリのフィリングとまでしてしまうその発想にはなるほど、その手もあったか、と唸り続けてしまうことだろう。イタリア料理愛好家や料理人はこの秋、アマトリチャーナを口にし、作る機会も多いことと思われるが、自由な発想のアマトリチャーナというのも人を飽きさせず、いい意味で初心に帰らせてくれる料理のありかたではないだろうか。

 

 

Masakatsu IKEDA
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池田匡克 Masakatsu IKEDA ジャーナリスト 1967 年東京生まれ。出版社勤務後1998 年イタリアに渡り独立。旅と料理のビジュアル・ノンフィクションを得意とし、イタリア語を駆使したインタビュー、取材、撮影、執筆、講演活動を日本、イタリア両国で行う。主な著書に「シチリア美食の王国へ」「イタリアの老舗料理店」「サルデーニャ!」「フィレンツェ美食散歩」「アマルフィとカプリ島」「Dolce!イタリアの郷土菓子」「世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ」など多数。2005年よりイタリア国立ジャーナリスト協会所属。株式会社オフィス・ロトンダ代表取締役。2014年国際料理大会Girotonno、Cous Cous Festに日本人として初の審査員に選ばれる。2016年レポーター・デル・グスト賞受賞。