モンデッロのシチリア料理店ダ・エンツォ Da Enzo
モンデッロはパレルモの北西、約11kmにある海水浴場で季節を問わずパレルモ市民に愛されている憩いの海辺である。かつてはマグロ漁を生業とした漁師町だったが、20世紀初頭に区画整理によって現在のような景観が完成。シチリア料理に興味がある人にとってモンデッロといえば90年代以降なら「バイバイブルース」それ以前なら全盛期にはミシュラン2つ星まで獲得した「チャールストン」というレストランがある町といえばわかりやすいだろうか。 今回久しぶりにパレルモから足を伸ばしてモンデッロを訪れてみた。春と呼ぶにはまだ遠い、温暖な冬の1日だったがそれでもシチリアの豊かな食材には確実に春の兆しが現れていた。「ダ・エンツォ」があるのはモンデッロの中心広場で、昔に比べて最近流行りのシチリアのストリートフードを売る店が増えたが、広場の雰囲気は昔と全く変わらない。もう20年以上前になるが、日本からパレルモを旅した時、ローマからの乗り継ぎ便が遅れてプンタライージ空港に着いた時はすでに夜もとっぷり暮れた深夜近く。慣れないレンタカーでようやく宿泊先のモンデッロまでたどりついた時はとっくに0時を回っていたが、深夜営業のターヴォラカルダでようやく口にできた初めてのシチリアの食べ物、冷たいアランチーニやパネッレが無性に美味しかったことを今も強く覚えている。あれから幾度となくシチリアを訪れることになろうとはあの頃想像だにしなかった。ちなみにそのターヴォラカルダらしき店はまだモンデッロの中心広場の片隅にあった。Insalata di polipo
テラス席に腰を下ろした時はまだ昼の営業が整うかどうかという時間帯。見ていると店の奥からショーケースに新鮮な魚が次々に運ばれてくる。やがて運ばれて来たのが茹でたてのタコ。パレルモでは茹でダコを食べさせてくれる屋台もあるが、これが実に新鮮かつやわらかく、香りが良くて美味しい。自分で茹でたタコは一匹丸々食べるほどの気にならないのに、パレルモで食べるタコはフォークが止まらなくなるから不思議だ。タコの持つ塩分にレモンと少量のプレッツェーモロだけの味付け。それなのになぜこんなに柔らかくて美味しいのか?Frittura di neonati
ネオナーティとはシラスのことだが、シチリアでは春先にかけてメカジキのシラスが大量にとれる。メッシーナ海峡を挟んだ対岸のカラブリアでは唐辛子につけたローザマリーナ、あるいは生のシラスにオリーブオイル、レモン、唐辛子で食べるが、シチリアではフリットにすることが多い。卵の入ったパステッラで揚げたシラスは日本のかき揚げを思わせる素朴で懐かしい味。これがあると聞いたら注文せずにはいられない。Calamretti fritti
もうひとつシチリアで季節を問わず常に食べたい料理に小イカ、カラマレッティのフリットがある。カラマーロ、つまりヤリイカの稚魚のフリットなのだが時々セッピエ、つまりコウイカの稚魚がまざっていることもありこれがまた美味しい。通常はシンプルにセモリナ粉をまぶしただけでさくっと揚げる。これにシチリアの白ワインは無敵の組み合わせである。Tonno cipuddata
正式なイタリア語名ならTonno Cipollata、つまりタマネギ風味のマグロ、ということになる。これは本来古くなったマグロを、炒めたタマネギ、白ワインとともに煮込む甘酸っぱい漁師家庭の始末料理。ソテーしたマグロにタマネギをのせるプレゼンテーションが一般的だが、これはしっかり火を通した中トロに近いマグロを、白ワインのきいたたっぷりスープで煮込んだ、汁気の多いトンノ・チプッダータ。これもメニューにあれば必ず頼みたくなるシチリアの味。エミリア・ロマーニャもシチリアもそうだが、アグロドルチェ、つまり甘酸っぱい料理はどこか日本人の心の琴線に触れるものがある。これはゴマがたっぷりまぶしてある香ばしいシチリア・パンで拭うようにしてスープも全部飲みきった。Linguine con ricci di mare
Ricci di mareとはウニのこと。シチリア、プーリアなど南イタリアでもウニをよく食べるが、日本のウニに比べれば卵巣は痩せているがヨード香はより強く、甘みより海の香りが勝つ。値段も安く、時期によっては一山いくら、で売られている。これを少量のトマトソースとともに最後に非加熱でマンテカーレしてソースにして食べるのがシチリアのウニのパスタだが、これがまたたまらない。ウニの旬も冬から4、5月ぐらいまで。ネオナーティと同じくいまが旬のシチリアの味だ。Da Enzo
Piazza Mondello, 16 - 90151 Palermo (PA)
+39-091-455199
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