Cafe Mulassano@TORINO

トリノの老舗カフェ、というと真っ先に名前が浮かぶ店がいくつかある。「カフェ・トリノ」「カフェ・サン・カルロ」「カフェ・ビチェリン」「バラッティ・エ・ミラノ」「プラッティ」そしてこの「カフェ・ムラッサーノ」。上記6件の老舗カフェの中でも最も規模は小さく間口はわずか2間あるかどうか。とはいえ流れる空気は圧倒的に濃密で無限の時間の堆積が手に取るように感じられる。かつて「イタリアの老舗料理店」という本を書いたとき、イタリア中のLocali Storici d’Italia加盟店を回ったことがあり、トリノではDel Cambioに2晩通った。そのとき取材はしなかったが、以後トリノを訪れる度、時間があれば足を運ぶのがこの「カフェ・ムラッサーノ」である。

このカフェは1800年代半ばにミント・シロップの製造業で知られていた「ディステッレリア・サッコ」のオーナー、アミルカーレ・ムラッサーノが開き、トリノのサヴォイア家を中心にイタリア統一運動が盛んだった当時は、今も店に残るカーテンの奥でヴィットリオ・エマヌエレII世初代イタリア国王がカフェをしていたという逸話も残されている。その後オーナーは流れ流れて1930年代から70年代にかけてはかなり廃れていたという話だが、アントニオ・ケッサという男が買い取って以後は丁寧な修復を繰り返し、再び昔のような雰囲気を取り戻した。

以前取材した時は、カウンターの中央にある蛇口は営業当初のように地下水を直接くみ上げていて、小さなグラスで飲ませてくれたものだが、先日はミネラル・ウォーターになっていた。ビチェリン、マロッキーノ、カフェ・ムラッサーノなどのカフェと一口大のトラメッツィーノが有名で、トリノの老舗の店では時折スノッブというか歴史を鼻にかけているような対応に遭遇することもあるが、「カフェ・ムラッサーノ」はいつきてもサービスがきちんとしているのが気持ちよい。滞在時間たとえ10分でもここでは立ち飲みでなく、老舗好きならば小さなテーブルに座って店内の装飾を眺めていればあっという間に時間は過ぎてゆく。

Masakatsu IKEDA
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池田匡克 Masakatsu IKEDA ジャーナリスト 1967 年東京生まれ。出版社勤務後1998 年イタリアに渡り独立。旅と料理のビジュアル・ノンフィクションを得意とし、イタリア語を駆使したインタビュー、取材、撮影、執筆、講演活動を日本、イタリア両国で行う。主な著書に「シチリア美食の王国へ」「イタリアの老舗料理店」「サルデーニャ!」「フィレンツェ美食散歩」「アマルフィとカプリ島」「Dolce!イタリアの郷土菓子」「世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ」など多数。2005年よりイタリア国立ジャーナリスト協会所属。株式会社オフィス・ロトンダ代表取締役。2014年国際料理大会Girotonno、Cous Cous Festに日本人として初の審査員に選ばれる。2016年レポーター・デル・グスト賞受賞。

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