シチリア美食の王国へ21 ドゥオモ@ラグーサ・イブラ
ミステリアスなラグーサ・イブラのクチーナ・クレアティーヴァ 1693年、カターニアからシラクーサ、ラグーサの一帯を地震が襲い、ほとんどの街が崩壊した。失われた街はさまざまな形で再び街として生まれ変わり、それが今に続いている。たとえば、カターニアはもとの街の上に新たにより道路を整備した形で新街区を築いた。ノートは古い街を捨て9キロ南に新しい街を作り上げた。ラグーサは旧市街に隣接する台地にも街を分散拡大するという方法をとったのである。 ラグーサはスーペリオーレと呼ばれるその新市街と、ラグーサ・イブラという地震以前の中心地が谷を挟んで寄り添うような街である。新しい街(といっても古いものは300年以上経っているのだが)は谷に向かって傾斜しながら碁盤目状の道が細かく街を区切り、道路はいつも渋滞、なのに県庁所在地でもあるのでやれ学会だ見本市だとイベントも多く、その度に交通は完全麻痺状態、ホテルはパンク、旅行者にとっては厄介な場所だ。それでも、ラグーサ・イブラを訪れるためには絶対通らなければならない。別にモディカ側からアプローチしてもいいのだが、それでは有名なイブラの全景を目の前いっぱいに楽しむことができないのだ。ラグーサからイブラへ向かう谷への道はつづら折りで、途中途中でイブラの街が見える。スタートに近い地点、サンタ・マリア・ディ・スカーレ教会のそばにはパーキングもあり、教会前からは一番高くからイブラを眺めることができる。イブラはその小さな山一つを単に全て建物でうめてしまっただけでなく、不思議なバランスのようなものを感じさせる街だ。磁場が強いといったら変だろうか、見る人を引きつける不思議な力。何度見てもこの街には飽きない。 イブラはもともと観光客が多く訪れるところである。だから、レストランも街の規模にしてはすごく多い。大抵はランチを食べて、次の街へ移動していくパターンだ。しかし、たまたま昼時だから立ち寄るというのではなく、この街にはわざわざ食べに来るだけの価値のあるレストランがある。それが「ドゥオモ」だ。シチリアのユニークな料理人というと必ず挙がるのがこの店のシェフ、チッチョ・スルターノ。パレルモのエノテカ「ピコーネ」のニコラは彼を評して“ヴェーロ・パッツォ”(本物の変人)という。料理への常軌を逸した探究心をわざと皮肉っているのだ。しかし、「ドゥオモ」の料理は突拍子もないものが出てくるわけではない。シチリア料理の伝統と、伝統的な食材を詳細に吟味し、あるものは軽く、あるものは発想を180度転換させて皿上に再構築している。味には広がりと奥行きがあるのに、重たさを感じさせない。パネッレはさくさくと軽く、野生のフェンネルとイタリアンパセリのほのかな香りがし、ひよこ豆の一種チチェルキエのクリームスープはさらりと滑らかで優しい。生クリームをふわっと泡立てたようなソースであえたイカスミのレジネッテ・パスタ、クリーミーなのに辛みはしっかりとしたアリッサを添えた仔羊のクスクス、ピスタチオ・ペーストを芯に巻いたデンティチェ(タイ)のインヴォルティーニ風など、どれもこれも繊細だけれど背筋はぴしっとのびた感じで勢いがある。ドルチェで面白かったのは、カンノーロ・スクラヴァッタート(ネクタイをはずしたカンノーロ)。普通は揚げたぱりぱりの生地の中に詰めるリコッタのクリームを皿の上に盛り、生地をその上にぽんと添えてある。言われてみればどうということではないのだが、それを自分で発想するかどうかが問題なのだ。 ここはパンも自家製でいろいろあるし、ワインもサービス担当のアンジェロ・ディ・ステファノがしっかりとコントロールしている。内装はシンプルでそれほど気を張らずに落ち着けるのがいい。イブラ観光のとっておきの楽しみとしておすすめのレストランだ。Duomo(ドゥオモ) Via Cap.Bocchieri,31 Ragusa Ibla(RG) Tel0932-651265 月曜休み 予算目安:45ユーロ 昼、夜に関わらず予約はしたほうがいい。食堂のように作り置き料理(それはそれで美味しいけれど)ではないからだ。場所はドゥオモを正面に見て右の路地を入ってすぐ。手前並びにはラグーサのツーリスト・インフォメーションがある。ラグーサ県の観光資料が揃っているし、対応も親切。 Ristrovip(リストロヴィップ) Via O.M.Corbino,29 Ragusa Tel0932-652990 www.siciliaenoteca.it siciliaenoteca@interfree.it ラグーサ・スーペリオーレの老舗エノテカ。シチリアのクォリティワインが充実。ラグーサ・イブラにジェラート屋も経営している。
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