シチリア美食の王国へ 22 カフェ・シチリア@ノート
2002年世界遺産認定、しかしノートの大聖堂は覆われたまま 17世紀末の地震で倒壊し、その後蘇った東南シチリアの街は当時のヨーロッパ世界、特にフランスとスペインで大流行していたバロック建築を取り入れ、独特の容貌を備えるようになった。絢爛、華麗な教会のファサードは天をつくように高くそびえて見るものを圧倒し、貴族や有力者のパラッツォは自由奔放な時にグロテスクな装飾をバルコニーや壁面に施して自らの権勢を誇示した。歴史学的、建築学的にこのバロック建築がどんな意味を持つのかは専門家に任せるとして、一般の旅行者として見て回るだけでも面白いのが、バロックだと思う。テーマは具象的でわかりやすいし、特にシチリアのバロックは明るさと同時にどうしようもない陰の部分を感じさせる。強烈にドラマチックなのだ。私が一番好きなのは、シラクーサのドゥオモのファサードに彫り込まれた子供の顔。いきいきとしたあどけない表情の中にしたたかな別の顔が見え隠れしているようで、気になって仕方がない。 一方、別の意味で気になるバロック建築といえば、ノートの大聖堂である。ファサード自体は控えめなデザインだが、今は修復中ですっぽり覆われている。初めて訪れた1995年の夏はあまり気に留めなかったので実をいうと大して印象もないのだが、翌年、ある日突然クーポラが崩れ落ち、ファサードだけが取り残された無惨な姿になってしまったのだ。その後の修復工事は遅々として進まず、当初は二〇〇〇年のうちに完了していなければならなかったのに、いまだに覆われたまま。街の中心の大聖堂が欠落したノートという街はいつもどこかしら不安定な感じを受ける。 このノートには日本でもすでに知る人ぞ知る有名な菓子職人がいる。ドゥオモ前の目抜き通りコルソ・ヴィットリオ・エマヌエーレのパスティッチェリア「カフェ・シチリア」の職人コラード・アッセンツァだ。「カフェ・シチリア」の名前がついたトローネやジャム、ハチミツなどは、日本にも輸入され、そのピュアな美味しさで知られる。遠い日本でも味わうことのできるこれらも、コラードが生み出す“作品”だが、ノートに来たらぜひとも味わいたいのが、生菓子のカンノーリ、カッサータ、季節ならアーモンドのグラニータ。こっくりとした素材の味がぱぁっと口中に広がる瞬間は、現地でしか味わえない贅沢なひとときだ。店内のガラスケースには、そのほかのいろいろな菓子(これらはどれも美味しい)と一緒にカンノーリとカッサータも並んでいるが、カンノーリだけは、そのガラスケース内のものを頼まず、クリーム詰めたてを食べること。オーダーすれば、奥でクリームを詰めて持ってきてくれる。ぱりっさくっとした外側の生地と濃厚なクリームの香りがするリコッタの組み合わせは、単純でいながら、ここのこの美味しさに適うものはないと思うから不思議だ。また、ノートはアーモンドの産地としても知られる。ここで穫れる新鮮なアーモンドをたっぷり使ったグラニータは、よく言われるようなさらさらとしたフラッペ状態ではなく、滑らかなクリーム状に近い、ジェラートとフラッペの中間のような感じ。アーモンドの香りいっぱいのこのグラニータは夏だけ食べることのできる貴重な美味である。
Caffe’Sicilia(カフェ・シチリア)
Corso Vittorio Emanuele,125 Noto (SR)
Tel0931-835013
caffesicilia@tin.it
  宿泊チェックポイント:「バロックめぐり、ホテルはどこに?」 観光地とはいえ、大都市ではないので、ホテルの数も規模も不足しているのがこの界隈。ラグーサには何軒かホテルもあるが、モディカ、ノートそのほかの小さな街ではあまり期待できないというのが実情だ。バックパック旅行ならいざ知らず、そこそこ快適でインターネット接続も可能なホテルとなると難しい。というわけで、この辺りを旅するなら、シラクーサに宿をとって拠点とし、車で行ったり来たりという方法が一番無難だ。シラクーサでは旧市街オルティージャ島に小さくて雰囲気のある三つ星ホテルが何軒かある。またグランドホテルタイプも一軒、さらにアレトゥーザの泉のすぐ隣にかつてのグラン・トゥーリズモ時代に栄華を誇ったクラシックホテルが再生準備中で、これが完成すればまたシラクーサのホテルライフがぐんと魅力アップするはずだ。一応、2003年内完成予定というが、ここはイタリアしかもシチリア、予定は決定にあらず。 もし、インターネット接続にはこだわらない、もっと田舎の空気を満喫したい、というのであれば、昨今流行りのB&Bはどうだろう。街の中、あるいはちょっとはずれの一般の住宅を利用した宿泊と朝食のみのプチホテルといったタイプでえある。設備などはホテルに比べ多少劣るが、なんといっても宿泊料金が格段に安いのが魅力である。アグリトゥリズモもいいが、一般的にB&Bよりもさらに設備面で厳しい(冷暖房がない、あるいは効かない、シャワーが安定しないなど)場合もあるので、利用する季節も考えて選ぶことが大切だ。 基本的にレンタカーで移動する旅を前提にしているので、大都市だとパーキング完備のホテルを選ぶことも最重要項目だが、田舎のアグリトゥリズモはその点は問題ない。B&Bの場合は、予約時に駐車スペースがあるかどうかの確認は必ずしておきたい。
ラグーサ県のB&B情報
問い合わせ先:Ufficio Informazioni A.A.P.I.T
Via C.Bocchieri,33 Ragusa Ibla tel.0932-221529 fax0932-623476
informazioni@ragusaturismo.it
現地インフォメーションでも入手できるパンフレットには、海沿い、ラグーサ・イブラとその周辺、モディカとその周辺、キアラモンテ・グルフィとその周辺といった具合に分けてB&Bが紹介されている。その数32軒。料金は一つ星で一人一泊朝食付きmin.15eu〜、最高三つ星でmin.25eu〜。そのほか、ホテル、アグリトゥリズモの情報も問い合わせ可能。

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