シチリア美食の王国へ14 サリーナ@モツィア
フェニキア人から現代へと伝わる手作りの塩田 真夏にトラーパニからマルサラにかけての海岸線を車で走ると、小山のように積み重ねられた無数の塩の山と風車が見える。この地方独特の「サリーナ」と呼ばれるイタリア最大の塩田風景である。今だから言えるが以前真夏にこのあたりを訪れた時は初めて見た塩の小山が幾つも並ぶ光景に圧倒され、思わず塩をひとつかみポケットに入れてしまった。シチリア名物の海塩「サーレ・マリーノ」はこの海岸で作られ、世界中に輸出されている。海塩には顆粒状の「フィーネ」とやや大きな粒状の「グロッソ」の2種類ある。 風、気温、湿度という塩作りに欠かせない三要素が整っているのに加え、マグネシウムやヨードなどの天然成分が豊富なこの海に目をつけたのはフェニキア人だった。ローマとカルタゴが戦った第一次ポエニ戦役後の紀元前241年、シチリアはローマ領となり、後にプリニウスもサリーナについて書いている。古代塩が何よりも貴重で兵士には給与として支給され、「サラリー」の語源となったことは有名な話である。 トラーパニのサリーナが文献に正式に表れるのは1154年、アラブの地理学者が書いた「ルッジェーロ王」という作品の中である。1719年にはスペイン兵により塩の掠奪が行われたという記録もあるが、サリーナの最盛期はアラゴン家支配の時代で、1730年からは塩の輸出でこの地域は高度成長時代に入る。19世紀には遠くノルウェーやスウェーデン、イギリスからも塩を運ぶ船がトラーパニの港に出入りしていたというが、第二時大戦後には工業化のあおりを受けてサリーナは急速に衰退していく。 モツィアという紀元前8世紀にフェニキア人が築いた遺跡が残る小島が見える場所にエットーレ・エ・インフェルサという現役のサリーナがある。風車内部は見学も可能でレオナルド・ダ・ヴィンチの風車を手本に修復した駆動部分はじめ塩田の仕組みが分かるガイド付き、もちろん塩もここ購入できる。 サリーナで塩はこう作る。まず大きく三層に分かれた塩田のうち、海に最も近く海面と同じ高さの第一の塩田に海水を引き込む。次に第二の塩田に「アックア・マードレ」(母なる水)と呼ばれる海水を第一の塩田から引き込み、3月中旬から約2ケ月かけて塩分3%の海水が27%になるまで水分を蒸発させる。こうして濃度が高まった海水を収穫用の第三の塩田へと移し、初夏の強い日射しで結晶化した塩が厚さ10cm程度になる7月上旬から塩の収穫は始まる。サリナーロと呼ばれる塩田職人たちが昔ながらの器具「ウ・パルー・ディ・ルンピリ」(破砕棒)を使って人力で塩の海を割り、小山を作り上げる。こうしたできた塩を昔は肩にかついで、今はさすがに台車を使って塩田の外に運び出し、貯蔵用に大きな塩の山を作り上げるのは20人の男達からなる「ヴェンナ」と呼ばれるグループだ。スコップで小山を作るチームとひたすら塩を運ぶ2チームからなり、リーダーは「カプヴェンナ」と呼ばれて全ての作業を監督する。昔のながらの容器「チェスト・ディ・カリカトゥ」24杯がこれも昔の単位である1サルマになる。1サルマは222kgになり、塩の山はひとつが500から800サルマでできている。こうした塩の収穫は9月から10月まで続けられ、最初の雨が降った後にサリーナ専用の瓦を使って雨除けの屋根をかけ翌年4月に販売開始するまで一冬寝かせる。こうしてえぐみやあくを自然に除くのである。風車小屋の中で見たビデオでは、真夏の太陽の下、塩を運ぶサリナーロたちがこんなサリーナの歌を歌っていた。
Ora cu l’havi salalina, na cantatedda fazzu di matina,

circanno di quariari; tri iddu nn’havi, forza, picciotti mei, e sunnu sei.

Ti manciasti li sicci e li muletti, si cuntu li carteddi fannu setti.

Talia quantu e’ beddu stu picciottu, aisa e metti ncoddu e sunnu ottu,

mi pari c’un si movi e nni fa novi; aisu puru a cartiduzza mia,

durici vacunedda haiu a la via, ma di comu firria lu canali,

a to calata quattordici nn’havi.Oh darreri nn’haiu quinnici,

vegna, picciotti mei, nn’avemu sirici. Assira si mangiaru purpu cottu,

allesti a acchia ppari e dicirottu; e ora accabbamu e un nn’haiu chiui

forza,picciotti mei, e su vintirui. Salarini, nn’avemu vintitrini,

certu ch’e’ veru mattu vintiquattru, chista di vinticinquu la tagghiari,

e la dicina e’ lesta e a lassu stari. E tagghiari vulemu a vuci longa,

e chiamari vulemu la Madonna, Madoooonaaaaa…




おい、そこの桶かつぎ、毎朝体を暖めるのはこの歌よ 

あいつが三つ フォルツァ、野郎ども六つめだ 

お前が食ったのはイカとボラ 桶を数えたら七つめだ 

おい、見てみろよあの男前 上げて担いで八つめだ

ちっとも動いてねぇみてーだが いつのまにやら九つめ

おいらの手桶も持ち上げて これでおいらは十二個め

水路を回ったばっかりなのに お前はすでに十四個

おいらの背中にゃ十五個め フォルツァ、野郎ども十六個

ゆうべはゆでだこ食っただろう 

素早く桶をかつぎあげ これでお前は十八個

ほれ、終わりだよおいらは手ぶら

フォルツァ、野郎ども二十二個 サリナーロどもよ二十三個

気狂い沙汰だよ二十四個 これで仕上げの二十五個

十山ばかし終わったぜ 仕上げの声は長々と

みんなでマドンナに祈ろうぜ マドーンナアー・・・
いつの日か夏のトラーパニを通りかかったら是非サリーナを探して車を走らせてみて欲しい。海へと続く無数の白い山に出会えたら、炎天下で塩にまみれて働く男達の姿も見つかるはずだ。そしたら、彼らの歌声に耳を傾けてみよう。それは過酷な条件に耐えながら働く男達の間で、代々歌い継がれてきた塩運びの数え歌なのである。
Saline Ettore e Infersa – Cilas Tour(サリーナ・エットーレ・エ・インフェルサ)
Contrada Ettore-Infersa, Marsala (TP)
Tel0923-966936
www.cilastours.com
4〜10月無休、11〜3月土曜日曜のみ9:00〜
風車実演は4〜10月の水曜午後及び土曜16:00〜18:00
入場料:1人3ユーロ 
敷地内には塩田が見えるホテルもある

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