シチリア美食の王国へ30 プラネタ@メンフィ
シチリア新世代ワイナリー、躍進の聖地を訪ねる 1995年設立後、またたくまにハイクォリティ・ワイナリーの座を獲得した「プラネタ」。それまでシチリアはごく限られたワイナリーを除いては、アルコール度数が高く、よそのワインと混醸するためのワインか単に消費するだけの安酒を産するところというイメージしかなかった。しかし、プラネタは、バランスのとれた高品質なワインをつくり出し、その送り先としてイタリア国内だけでなくインターナショナル・マーケットに照準を当てたのである。太陽の降り注ぐシチリアから生まれた新星ワインは、すでに名が知れて価格も高騰したピエモンテやトスカーナのワインに比べて値が手ごろなことも手伝って、ワイン・マーケットでは大人気となった。 プラネタは、従兄弟同士の三人の若者が設立したワイナリー、というのも話題を呼んだ。アレッシオ・プラネタ、フランチェスカ・プラネタ、サンティ・プラネタ(三人の年齢を合わせても百歳にいかないというのが誕生当時の売りだった)という若い世代がシチリアをクォリティワインの地として新たに蘇らせようと取り組んでいるというので、ガンベロ・ロッソなどはその月刊誌で大きく取り上げ、特にフランチェスカは若く美しい女性ということで注目を浴びた。 ワイナリーの基盤は1985年、サンブーカ・ディ・シチリアのアランチョ湖のほとりに新しく苗木を植えたことに始まる。この畑ウルモに植えられたのはシャルドネ、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、グレカニコ、ネロ・ダヴォラ。これらの葡萄品種から、このワイナリーが目指した三大目標のうち二つが理解できる。一つはインターナショナル品種を育て、世界に受け入れられるワインをつくること、二つ目はシチリア原生品種を使ったより優れたワインをつくること。ついでながら三つ目は、イタリア各地の品種を試し、シチリアのその土地に合う品種を見い出すことである。 この目標に従って、プラネタはさまざまな葡萄品種の試験とともに、苗を育てるために畑の新規購入も進める。メンフィの畑ディスペンサとグーラではシラー、カベルネ・フラン、フィアノのほかイタリア品種を植え、またシチリア東部では、伝統品種を用いたその土地らしさを表現するワインを目指して、シラクーサ県のノートで、ネロ・ダヴォラ、モスカートを、ラグーサ県のヴィットリアでフラッパート・ディ・ヴィットリアとネロ・ダヴォラを次々に植えていった。今、プラネタの所有する畑面積はトータル350haにまで広がっている。 プラネタはすでに日本の雑誌などで何度も取り上げられ、もっとも有名なシチリアのワイナリーの一つであるが、サンブーカ・ディ・シチリアにあるカンティーナ、ウルモを実際に訪れてみると、工場のような大きな醸造用建物があるわけでなく、また古くて立派なお城が目印に立つようなところでもない。アランチョ湖のそばにひっそりと目立たなく佇む平家である。辿り着くまでの標識も看板も本当に少なく、サンブーカの街を過ぎてようやくところどころに青い矢印が立っているくらい(それもプラネタとは書いてない。なんのための矢印なんだろう?)。 敷地内には1500年代のバッリオ(中庭のあるシチリア式領主館)があり、そこにはクライアントを招いてのパーティをするホールと、少人数グループのための試飲ルームがあり、また別棟のカンティーナの地上階に醸造庫、地下に研究室と熟成庫があり、そこでは1200ものバリック樽が眠っている。今現在は、白も赤もこのカンティーナで醸造しているが、やがて赤の醸造はすべてメンフィのカンティーナ・ディスペンサに移るという。 プラネタのワインは、白がセグレータ・ビアンコ、アラストロ、コメータ、シャルドネの四つ、赤がセグレータ・ロッソ、チェラスオロ・ディ・ヴィットリア、シラー、メルロー、サンタ・チェチリア、ブルデーゼの六種。そしてオリーブオイルも先頃人気が出始めている。インターナショナル・マーケットでの旗艦ワインといえば、白のシャルドネと赤のブルデーゼやメルローだ。ちなみにブルデーゼとはボルドータイプ、つまりカベルネ・ソーヴィニヨンである。 単一品種によるハイクォリティワイン、これがプラネタの名声をここまで高めた立て役者たちといってもいい。しかし、個人的にはアラストロ(グレカニコ、シャルドネ)のちょっと癖のある白や、華やかで若々しいチェラスオロ・ディ・ヴィットリア(ネロ・ダヴォラ、フラッパート)などが好みである。毎日の食事、特にシチリアの料理に合うような気がするからだ。 上質で美味しい。しかしそれだけではない、とよく言われるのがプラネタのマーケティング戦略の上手さ。大手食品会社のPR部門での経験を持つフランチェスカがおもに担当しているのがこの分野だ。シチリアにはまだまだクラシックな、ともすれば野暮ったいエチケットのワインが多い。一方、プラネタのエチケットはどれも優秀なグラフィックデザイナーに何度も試作をさせて出来上がるそれこそ練りに練ったデザインだし、パンフレットからウェブサイトまできっちりと計算されたデザインは人々の目を引き付ける。創業以来毎年配付している月齢カレンダーは有名で、イタリア全国どこのエノテカでも見かけるほど。プラネタはブランドとしても機能すべし、と最初から狙っているのだ。 2002年春、フランチェスカにインタビューする機会があった。主にデザイン部門だけを統括しているのかと思って聞いたら、とんでもない、という答えが返ってきた。三人は常に、次はどんなことをしたいか、どんなワインをつくりたいか、安定した高品質ワインをつくり続けるためにはどうしたらいいのかを話し合うのだと言う。ワインを飲みながら(時々飲み過ぎて酔っぱらうらしい)三人で話し合うこの“会議”が一番面白いとも言っていた。クラブ感覚のワイナリー。年長者が全てを決める古くからのスタイルから脱却した新生シチリアの象徴のようなワイナリーである。Aziende Agricole Planeta s.s.(アジエンデ・アグリコレ・プラネタ) Contrada Dispensa, Menfi (AG) Tel0925-80009 www.planeta.it planeta@planeta.it 見学予約:tel.091-327965 fax 091-6124335 見学は要予約。ワイン、オリーブオイルの直販はしていない。
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