シチリア美食の王国へ31 躍進するシチリアのワイナリー
伝統的領主の館を美しく再現、大資本投下型シチリア最新ワイナリー シャッカのレストラン「オスタリア・デル・ヴィーコロ」のアントニーノに、どこか近辺で面白いワイナリーはないか?と聞いたら、最近出来たばかりの素晴らしく大きなワイナリーがあるけれど、と教えてくれたのが、「フェウド・アランチョ」。プラネタと同じサンブーカ・ディ・シチリアだが、プラネタがアランチョ湖の東畔にあるのに対し、このワイナリーは湖の西側の高台にあって湖をはるかに見下ろす位置にある。県道188号線の、東へ向かえばサンブーカ・ディ・シチリア、北へ行けばサンタ・マルゲリータ・ディ・ベリチェという分岐点ポルテッラ・ミジリベージから、オレンジ色の屋根に真っ白な壁のワイナリーが見えるのですぐわかる。訪れた2003年3月は、ようやく建物の工事が終わり、後は外周工事を残すのみ、一般訪問を受け付けるようになってまだ一週間という状況だった。 このワイナリーはまず、その立派なカンティーナが中心をなしている。建物はバッリオと呼ばれる中庭を持つシチリアの伝統的な領主の館の形式を忠実に再現し、その中に、醸造及び貯蔵庫、直売所、試飲ルーム、事務所、クライアント用宿泊施設などが収まっている。建物の外には広大な駐車スペースもある。見学を申し込むと、ガイド付きで丁寧に案内してくれる。コンピュータ制御の巨大なステンレスタンクや気温が高いサルデーニャやシチリアで最近人気の白ワイン用葡萄冷却装置など、何もかもぴかぴかの最新式だ。そして何よりも圧巻だったのは、地下に広がる広大なバリッカイオ(バリック樽貯蔵庫)。贅沢にも床一面に広げ並べたその数は627個(見学当時)。普通、バリックは積み上げておくことが多いが、ここは、25歳という若きエノロゴの希望で「見た目にも美しい」バリッカイオを実践してみたのだという。 バリッカイオでびっくりした後は、戸外で畑と葡萄についてのレクチャーを簡単に受けた。カンティーナのある高台の上から下へ斜面にそって広がる畑はトータルで270ha(うち、240haを葡萄畑として耕作)、品種はグリッロ、シャルドネ、ネロ・ダヴォラ、メルロー、シラー。グリッロはマルサラ用の葡萄として知られる品種だが、近年は普通のワインづくりにも使われるようになり、このワイナリーもその試みに乗りだしているようだ。フェウド・アランチョとして売り出すのは全てこれらの葡萄の単一品種ワイン。だから、葡萄の名前がそのままワインの名前となる。エチケットは白地のシンプルなデザイン。アメリカ向けには黒地のもっとドラマチックな雰囲気のエチケットを使う。ワインのエチケットにおけるマーケティング的見識では、アメリカはなぜか色の濃いエチケットのほうが売れるのだという。なぜだろう? このフェウド・アランチョは、実は生っ粋のシチリア・ワイナリーではない。北イタリアのトレンティーノにある大手ワイナリーがシチリアに進出して生まれたワイナリーである。巨大な資本を投下して、最新式の設備を整え、エチケットデザインから一般顧客の見学受け入れまできっちり計算してコントロールしている。こういうと語弊もあるが、実にアメリカっぽい。でもそれが、伝統ワインに安穏とし大して品質向上努力も行わず(まぁその陰にはマフィアというものもちらつくが)、貧しい貧しいと不平を並べるだけの旧来のやり方ではもう時代遅れだということを見せつけて、周囲を鼓舞することになるかもしれない。案内してくれたPRのパオラ嬢は地元生まれの典型的地中海美人(マリア・グラツィア・クチノッタ系)だが、このワイナリーでPRの仕事をこなすためには、ワインの勉強もさることながら、地元の歴史や伝統についても知識を深め、訪れる人々に幅広い説明ができなければならないと話していた。彼女だけでなく現地採用のスタッフは多い。地元民を引き込んでのこうした経済活動がワイナリーのみならず地元の活性化にもつながっていくのだろう。そうとは頭でわかるけれど、それにしてもシチリアの素朴な良さは失わないでほしいと思うのは、すごく勝手な言い分だろうか。 Feudo Arancio(フェウド・アランチョ) Contrada Portella Misilibesi, Sambuca di Sicilia (AG) Tel0925-31540 www.feudoarancio.it 見学、購入は予約の上。 アグリジェント近郊の注目ワイン ワイナリー「プラネタ」のおかげで、ワイン産地として注目を浴びるアグリジェント西部には、以下のようなDOC(Denominazione Origine Controllata原産地呼称統制)ワインがある。 Sambuca di Sicilia(サンブーカ・ディ・シチリア) 1995年DOC認定。白、赤、ロゼの三種。生産地域はアグリジェント県サンブーカ・ディ・シチリア。白はアンソニカもしくはインツォーリア、カタラット・ビアンコ、シャルドネ。赤とロゼにネロ・ダヴォラかカラブレーゼ、ネレッロ・マスカレーゼ、サンジョヴェーゼ、カベルネ・ソーヴィニヨン。熟成は赤で最低六ヶ月、赤のリゼルヴァで最低二年(うち最低六ヶ月は樽熟成)。 Santa Margheria di Belice(サンタ・マルゲリータ・ディ・ベリチェ) 1996年DOC認定。白、赤、ロゼの三種。生産地域はアグリジェント県サンタ・マルゲリータ・ディ・ベリチェとモンテヴァーゴ。白はアンソニカ、カタラット、グレカニコ、赤はネロ・ダヴォラ、サンジョヴェーゼ。 Menfi(メンフィ) 1997年DOC認定。白、赤の二種。生産地域はアグリジェント県メンフィ、サンブーカ・ディ・シチリア、シャッカ、トラーパニ県カステルヴェトラーノにまたがる。白はグレカニコ、アンソニカもしくはインツォーリア、シャルドネ。赤にカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、ネロ・ダヴォラ。赤のリゼルヴァ、ヴェンデミア・タルディーヴァ(遅摘み)もある。 Sciacca(シャッカ) 1995年DOC認定。白、赤、ロゼの三種。生産地域はアグリジェント県シャッカとカルタベッロッタ。赤のリゼルヴァもある。 (協力/Francesco Pensovecchio) しかし、まだまだDOCワイン産地としてはこれからといったところ。DOCにとらわれずにいいワインを探すのであれば、以下のワイナリーをチェック。 SETTESOLI Menfi(セッテソーリ協同組合・メンフィ) 注目ワイン:Bendico’ Mandrarossa赤(ネロ・ダヴォラ、メルロー、シラー) Furetta Mandrarossa白(シャルドネ、グレカニコ) GASPARE DI PRIMA Sambuca di Sicilia(ガスパレ・ディ・プリマ社/サンブーカ・ディ・シチリア) 注目ワイン:Villamaura Syrah赤(シラー) AGARENO Menfi (アガレーノ社/メンフィ) 注目ワイン:Moscafratta赤(ネロ・ダヴォラ、カベルネ・ソーヴィニョン、メルロー)、Gurra赤(ネロ・ダヴォラ) BAGLIO SAN VINCENZO Menfi (バッリオ・サン・ヴィンチェンツォ社/メンフィ) 注目ワイン:Terre dell’Istrice赤(カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー)、Don Neli赤(ネロ・ダヴォラ、カベルネ・ソーヴィニヨン)/白(グレカニコ、シャルドネ) MILAZZO Campobello di Licata(ミラッツォ社/カンポベッロ・ディ・リカータ) 注目ワイン:Maria Costanza赤 Cantina Sociale LA TORRE Racalmuto(カンティーナ・ソチァーレ・ラ・トッレ/ラカルムート) 注目ワイン:Villa Noce赤(ネロ・ダヴォラ) MORGANTE Grotte(モルガンテ社/グロッテ) 注目ワイン:Nero d’Avola Morgante赤(ネロ・ダヴォラ)、Nero d’Avola Don Antonio赤(ネロ・ダヴォラ)

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