手作り服の店で聞いた恐い話
ガイドブック改訂の季節。 というか、別に季節が決まっているわけじゃないけど、 改訂せよ、という指令が来たので。 改訂のための新規紹介物件を探して、フィレンツェ街歩き。 普段だったらこんな暑い日の暑い時間帯(午後4時。 お店が開くのがその頃だから)にうろつきたくないけど。 かといって、あてもなくうろつくなんて愚の骨頂。 今流行り(?)の熱中症なんかになったら笑えない。 でも、この熱中症って、日本だけ? イタリアでは聞かない。 いずれにしても、あてはつけて外出。レプブリカ広場を越え、 アルビツィ通りをまっすぐ。街の東へ向かう。 ピエトラピアナ通りに入る手前に、なぜか、手作り服や エスニックな小物なんかを売る店がごちゃっと集まっている 一角がある。その中の一軒を取材しようかな、という目論み。 アメリカ人の女の子二人がやっている店が面白い、 と何かで知ったので覗いてみたが、ちょっとイっちゃってるなー。 見る人が見ればすごくかわいかったりするのかもしれないけど、 ガイドブック見てそこへ行こう!と考えてる人って、ちょっと そういう人種じゃないと思う。いや、実際、街中で ガイドブック広げてる女子を見ていると、そう確信できる。 その店の並び、角にミシンの見える小さな服屋にふらっと 入ってみる。折しもセール中、SALDIの手書き文字が拙い。 店の中ではお客には見えない小柄なイタリア男が店の女性と談笑中。 聞くともなしに聞こえてくるのは他愛無い近況話。誰がどうしたとか バカンスは行くかとか、彼氏は元気かとか。どうやら、この店の ペングィーノ(冷風機)が目当てだな、と勘ぐる。 暑いもんね。私も半分は同類。 涼み終わったのか、彼は出て行き、私は試着。 肩幅があって胸はないが厚みのある体つきの私の 洋服選びは難しい。見て「かわいい」と思っても 着ると「あちゃー」なことが多い。 しかし、ここのはなぜかそんな「あちゃー」がなかった。 どの服も「まぁ悪くないじゃん」に落ち着く。 その理由はお店の女性を見てわかりました。 同じ体型なんだ! そして、彼女は東洋人。日本人かな?と思ったけれど、 実際、日本語も話すけれど、ハズレ、韓国の人だった。 イタリア人と結婚しているけれど、その彼とは英語とイタリア語 ちゃんぽんで、彼女はイタリア語よりも英語や日本語のほうが 得意という。というわけで、日本語でよもやま話が始まった。 ホテルで働いていたご主人とはフィレンツェに旅行に来て知り合い、 4年前に結婚。洋服屋を始めたいとご主人と自宅兼ショップになる 物件を探していたときに、不動産屋に紹介された一軒が目に留まる。 でも、決めてにかけるので三日間の猶予を申し入れたら、 「この物件は人気があるので、もしキープかけたいなら キープ料金300ユーロを払うように」と言われ、 そのキープ契約書にサインもした。これが悪夢のはじまり。 調べたところ、その物件はお店にはできないことがわかり、 断ろうとしたら、不動産屋が「あの物件を買うということで 契約書にサインしただろう。キャンセルするなら違約金を払え」 と言ってきたのだ。ありえない、と思った彼女は強行に突っぱねる。 すると相手は裁判に持ち込んだ。出た、イタリアの裁判好き。 というか、なんでもかんでも裁判にして、賠償金をとろうという 国だと、噂では聞いていた。 イタリアは訴えられたほうが負け、という傾向があるようで、 被告勝訴というケースはほんとレアなのである。 訴えるほうは、裁判にすれば絶対勝てる=儲かると 味をしめているからタチが悪い。 泣き寝入りするタイプではない彼女は負けるものかと 最初こそは立ち向かったが、日を追うにつれ疲れ、 弁護士も「最短であと3、4年はかかる」と言い、 とうとう示談に応じたという。 違約金と相手の弁護士料も負担して、しめて2万ユーロの負け。 契約書はとにかくしっかり読め、とはよく言われるけど、 母国語でもその手のものは難解不可解。彼女の場合だって イタリア人のご主人が一緒だったのにやっぱり引っかかった。 しかも、弁護士に言わせると、「最初は私でもこの契約書の どこが売買契約になるのかわからなかった。ものすごく巧妙に 回りくどく、しかし、最終的には売買契約と見なされる書き方」。 まさに悪徳業者。立派なホラー。お陰で暑さも吹っ飛びました。mnm

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