Venezia考
しばれる雪の日以来4ケ月ぶりのヴェネツィアのペスケリア市場。旬の地中海のマグロはのきなみキロ12ユーロとフィレンツェ・サン・ロレンツォの相場の半額。さらにスミイカ、シャコ、ホタテ、イシモチ、クモガニなどなどどれもきらきらと輝く海の幸が満載。今度こそしばらくキッチン付きのレジデンスに滞在してこうしたアドリア海の幸を好きなだけ買い込んで料理してみたい、という欲望またしても再燃。 市場の近くにうまいものあり、というのはイタリアに限らず万国共通の黄金律で、ヴェネツィアに関してもその例外ではない。例えばアンティケ・カランパーネの厨房には冷凍庫はなく「うちの冷蔵庫はペスケリア市場だ」と若き店主フランチェスコは言い切る。その誠実な仕事ぶりは一度テーブルに着いてみれば実によく分かる。 しかし市場に近いからといってどの店も毎朝市場に足を運んだり、素材に気を使っているわけではないことも残念ながら事実である。ヴェネツィアの店探しは当たり外れが極端に激しいだけに逆に楽しいのだが、少なくとも店頭にこれみよがしに魚が積まれていて呼び込みをする店にいい店は少ないのではないか、と思う。実際のところこういう他国語メニューがある呼び込み店には残念ながら一度も入ったことがないのでよく分からないけれど、カメリエーレの態度、服装、客層、メニューを見る限り記憶に残る夜を期待するのは奇跡を待つようなもの。サン・マルコ周辺の裏道を歩くとそういうヴェネツィア食事情がよく分かる。あ、写真は呼び込み激しい裏通りです。 同じく市場に近い老舗ヴェーチョ・フリトリンのオーナー、イリーナと話していると「●●は市場の脇にあるけれど冷凍の魚を使ってるし」という話になった。それは昔も今もガイドブックに非常によく出てくる店でその切り抜きが店の前にやたらはってあるからすぐに分かると思うけれど、近年改装した店内は伝統も哲学も忘れ去ったかのようなファミレス風。差別するわけではないが料理をするのはイタリア人ではなくアジア系、さらにテラス席では呼び込みもはじめたようである。 こうした店がいつまでもガイドブックや雑誌に出続けて「新鮮な素材の美味しいお店!!」とかいう見出しで飾られるのは引用&孫引きによるセレクト、取材(力)不足、判断力の欠如、人員不足、知識不足などなどいろいろな要因があるかと思う。「美味しい」「美味しくない」という表現はあるていど主観に左右されるだけに、その点について口角泡を飛ばして議論するのはスマートでないしあまり意味のないことでもある。 しかし店を判断する基準とは「美味いまずい」という最終的な結果へと至るプロセス、つまりその店の哲学、姿勢、歴史、伝統、探究心、向上心といったファクターこそが重要なのではないかと思う。人気があって活気があって、メニューが充実していて素材も新鮮で、しかし不思議とまずい、という店にあたるのはなかなか難しいのではなかろうか。ヴェネツィアの場合その逆は非常〜に簡単であるのだが。 MASASAPORITAをもっと見る
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