マグロの話
朝、サン・ロレンツォ中央市場の魚屋マッシミリアーノの前を通ると、巨大なマグロがまだ発泡に入ったまま解体を待っていた。ガルガや某和食店はじめ各レストランに魚を卸しているこの店でマグロを買うようになって数年、電話注文もできるのだが、やはり目にしてみないと分からない。電話で予約して行ってみると、今朝シチリアから届いたというのに開けたらすでに身が焼けてた、なんてことも二度三度。これは1一本釣りの場合漁場から港までの保管状態 、2流通システム、に問題があると言われているがシチリアの場合は流通を制限するMの影響もあるのではないかと思う。以前ファヴィニャーナ島でマグロ漁の時期なのに漁業権が取れず出漁できない漁師を見たこともあった。これはトラーパニの水産Mのせい。 イタリアの場合魚屋でもレストランでもひとくちにTONNOと書かれることが多くて、みなあまり魚種を気にしない。結果市場でもキハダもホンマグロもビンナガもキロあたりの末端価格は一律同様。とすれば消費者としてはホンマグロを買うしかないがこれがなかなかいいのにあたらない。 大西洋ホンマグロは5〜6月にかけて産卵のため地中海に入ってくるので今が旬。で、この日のマグロはまごうことなき地中海ホンマグロ、Tonno Rosso45kg。マッシミリアーノが解体し始めると、見事な玉子がふたはら。これはメス。一番客なのでカマ下のカミを筒切りでずどんと切ってもらい、計ると4.8kg。値段の話をすると下世話なのでこれで●●ユーロ、としておきます。 これが2005〜2006年シーズン一番のマグロだった。家でさばくとその新鮮さと脂の乗り具合は一目瞭然。砂擦り、大トロは蛇腹と霜降りの二種、血合いは非常に少なく歩留まり非常によし、赤身も上等。これを切り分け、さらに自己判断の等級で大トロ、中トロ、赤身上、赤身並、スジ(焼き用)と分け、中落ちはズケにして、骨周りはフィノッキオ、オレガノ、ミント、ニンニク、トマト、黒胡椒たっぷりでシチリア風ラグーに。これはリガトーニあたりで食べるのがよろしいかと。 で、とれた刺身が20回分。焼き物数回分。刺身の上等さはいわずもがな。ただあまりに新鮮すぎてともすれば歯ごたえがあり過ぎ。寿司屋ならばこれを氷蔵して数日自己分解させ、赤身は独特の酸味が、トロは独特のこなれ具合が出て来た時が食べごろなのだろうが、そのあたりが自宅ではできない。あの「すきやばし次郎」の赤身のような熟成度はビステッカをこなれさせるのと同じ熟練のプロの技。素人がみようみまねで一朝一石でできることではない。 「すきやばし次郎 旬を握る」(文芸春秋)は故里見真三氏の名著にしてマグロ好きのバイブル。 MASA

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